場所にとらわれずに働くことができるリモートワーク。
最近では、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語「ワーケーション」とともに語られる場面も多く見られますが、海外に長期滞在して行う「ワーケーションビザ」というものが存在することはご存知でしょうか。
今回は「ワーケーションビザ」の解説とともに、世界のさまざまな国や地域で発行されている「ワーケーションビザ」18選をエリア別に紹介します。
ワーケーションビザ・リモートワークビザとは?
海外からのリモートワーカーの受け入れを推奨するのが「ワーケーションビザ」や「リモートワークビザ」。名称はさまざまで、内容・条件・ルールも国によって大きく異なります。
ワーケーションビザ/リモートワークビザの導入国には観光大国も多く、コロナ禍で減少した観光客を呼び戻し、ホテルやレストラン、航空産業などを救う狙いもあります。
国連貿易開発会議が2020年7 月1日に発表した報告書によると、コロナによって停滞していた4ヶ月だけで試算しても、世界の観光産業は世界の国内総生産(GDP)の少なくとも1.5%に相当する1兆2千億ドルの観光収入を失ったとのこと。観光収入を支えとしている国にとっては厳しい状況であることが分かります。
そんななか、解決策の1つとして注目されているのが「ワーケーション」。自国外の仕事で収入を得るリモートワーカーを呼び込めば、自国の雇用を失うことなく滞在中の生活や観光などでの消費行動を促すことができると考えたのです。
エリア別、ビザ提供国18選
では、実際にどのような国がワーケーションビザやリモートワークビザを発行しているのでしょうか?以下では、ワーケーションビザ発行国をエリア別に紹介します。
ヨーロッパ【8ヶ国】
美しい街並みのヨーロッパはGDPのうち観光業の割合が高く、ワーケーションにも積極的な印象。各国が独自のビザを発行し、リモートワーカーの受け入れに柔軟です。
1.ドイツ
ドイツでは、フリーランス向けの「フリーランサービザ」を発行しています。ヨーロッパでフリーランスビザを設けた最初の国がドイツ。「フリーランサービザ」はワーケーションやリモートワークを直接指しているわけではありませんが、リモートでの仕事ももちろん可能です。
フリーランスビザには、アーティスト向けとその他の専門家向けの2 種類があります。3年という長期の滞在が可能で、明確な所得制限がないのが特徴です。
ビザ名 | フリーランサービザ |
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滞在可能期間 | 3年間 |
費用 | 60ユーロ |
条件/必要事項 |
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2.ギリシャ
ギリシャ共和国では「デジタル・ノマド・ビザ」を発行。滞在可能期間は1年間で、月収が3,500ユーロ以上であるという条件を満たす必要があります。
ビザ名 | デジタル・ノマド・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 75ユーロ |
条件/必要事項 | 月収が3,500ユーロ以上であること |
備考 | 有効期限が切れる前に、居住許可の申請が可能 |
3.エストニア
エストニア共和国もギリシャと同じく「デジタル・ノマド・ビザ」を発行。エストニアは北ヨーロッパに位置し、ITを行政に活用する「電子政府」を構築するテクノロジー先進国です。
ビザ名 | デジタル・ノマド・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 80~100ユーロ(滞在期間による) |
条件/必要事項 |
ビザ申請の半年前から月収が3,504ユーロ以上であること
(以下いずれかに該当している必要あり)
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4.チェコ
チェコ共和国では「Zivnoビザ」を発行。滞在可能期間は1年間で、銀行口座に十分に滞在・生活できる資金(5,587ユーロ以上)があることを証明する必要があります。
ビザ名 | Zivnoビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 100ユーロ |
条件/必要事項 |
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備考 | チェコの領事館または大使館で直接申請する必要があり、 処理時間は観光ビザの場合よりも 90~120 日と長くなる。 |
5.マルタ
マルタでも、ギリシャ・エストニア同様に「デジタル・ノマド・ビザ」を発行。マルタは島国ですが、ヨーロッパ本土への手頃な価格のフライトが頻繁に運航されていて、ワーケーションに人気な拠点です。
ビザ名 | デジタル・ノマド・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 300ユーロ |
条件/必要事項 |
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6.ジョージア
ジョージアでは、なんとビザ不要でリモートワークが可能!滞在可能期間は1年間(最低180日間)で、月収は2,000ドル以上であることが条件です。
ビザ名 | ビザ不要 |
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滞在可能期間 | 1年間(最低180日間) |
費用 | 無料 |
条件/必要事項 |
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7.クロアチア
クロアチアでも「デジタル・ノマド・ビザ」を発行。健康保険への加入や月収が2,400ドル以上であることなどの条件はありますが、クロアチアでの所得税は免税される点が特徴です。
ビザ名 | デジタル・ノマド・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 100ドル |
条件/必要事項 |
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備考 |
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https://mup.gov.hr/aliens-281621/stay-and-work/temporary-stay-of-digital-nomads/286833
8.アイスランド
アイスランドでは、180日の長期滞在ビザを発行。“アイス”ランドという名前ですがそれほど寒くなく、夏もあまり暑くないので快適にワーケーションできる気候です。
ビザ名 | 長期滞在ビザ |
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滞在可能期間 | 180日間 |
費用 | 7,800クローナ |
条件/必要事項 |
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備考 | 必要資料の紙媒体での提出が必要 |
https://island.is/saekja-um-langtimavegabrefsaritun-vegna-fjarvinnu
カリブ海地域【7ヶ国/地域】
カリブ地域はパンデミックで深刻なダメージを受けましたが、観光立国再建のための法整備が進んでいます。バミューダ諸島、バルバドス、アルバでは「楽園のオフィス」をコンセプトにWi-Fi環境を改善。
ビーチリゾートの利点を生かしてリモートワーカー向けにビザを発行し、ワーケーションを推進しています。
1.ケイマン諸島
ケイマン諸島はカリブ海の西にある3つの島からなるイギリス領の国で、ビーチリゾートが広がる美しい風景が特徴。滞在可能期間2年間の「グローバル・シティズン・サティフィケート」と呼ばれるビザを発行しています。
租税回避地(タックス・ヘイブン)であるため、資産運用会社や特定目的会社を置く海外の金融企業も多い国です。
ビザ名 | グローバル・シティズン・サティフィケート |
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滞在可能期間 | 2年間 |
費用 | 2名で年間1,469ドル |
条件/必要事項 |
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備考 | ケイマン諸島に登録されている企業にて働くことはできない |
2.アンチグア・バーミューダ
アンチグア・バーミューダは、カリブ海東部の小アンティル諸島に位置するアンティグア島、バーブーダ島、レドンダ島からなる独立連邦国。滞在可能期間2年間の「ノマド・デジタル・レジデンス」というビザを発行しています。
ビザ名 | ノマド・デジタル・レジデンス |
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滞在可能期間 | 2年間 |
費用 | 1,500ドル(1人)、2,000ドル(2人)、3,000ドル(3人以上の家族) |
条件/必要事項 |
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3.バルバドス
バルバドスは、カリブ海、西インド諸島内の小アンティル諸島東端に位置する、全体がサンゴ礁でできている島国。滞在可能期間1年間の「バルバドス・ウェルカム・スタンプ」というビザを発行しています。
ビザ名 | バルバドス・ウェルカム・スタンプ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 2,000ドル(1人)、3,000ドル(家族同伴) |
条件/必要事項 |
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備考 | バルバドス到着時にビザが渡される |
4.バミューダ諸島
バミューダ諸島は北大西洋にある諸島で、イギリスの海外領土。滞在可能期間1年間の「ワーク・フロム・バミューダ」というビザを発行しています。
金融部門と観光部門に支えられ、イギリスの海外領土の中でも政治的・経済的な自立度が高い特徴があります。
ビザ名 | ワーク・フロム・バミューダ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 263ドル |
条件/必要事項 |
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5.アンギラ
アンギラは、カリブ海の西インド諸島の小アンティル諸島とリーワード諸島で構成されるイギリス領の島々。滞在可能期間1年間の「デジタル・ノマド・ビザ」を発行しています。多くの他の国と異なり、年収条件がないのが特徴です。
ビザ名 | デジタル・ノマド・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 2,000ドル(1人)、3,000ドル(家族同伴) |
条件/必要事項 |
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6.モントセラト
モントセラトは、カリブ海の小アンティル諸島に位置する火山島で、イギリスの海外領土。 滞在可能期間1年間の「モントセラト・リモートワーク・スタンプ」というビザを発行しています。
ビザ名 | モントセラト・リモートワーク・スタンプ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 500ドル(1人)、750ドル(家族3人まで) |
条件/必要事項 |
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7.アルバ
アルバは西インド諸島の南端部で、南米ベネズエラの北西沖に浮かぶ島。名前の通り「ハッピー・ワーケーション・プログラム」というワーケーション向けのビザを発行し、滞在可能期間は90日間です。
オランダ王国の構成国ですが、高度な自治が認められています。
ビザ名 | ハッピー・ワーケーション・プログラム |
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滞在可能期間 | 90日間 |
費用 | 不要 |
条件/必要事項 |
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備考 |
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中東【ドバイ】
オイルマネーにより経済発展が著しい中東では、地域は限定されるものの比較的長期間滞在できるビザが用意されています。
ドバイ
ドバイは、中東のアラブ首長国連邦(U.A.E)を構成する首長国の1つ。滞在可能期間1年間の「ワンイヤー・ヴァーチャル・ワーキング・プログラム」というビザを発行しています。
ドバイは中東屈指の都市並びに金融センターで、超高層ビルや商業施設などが多数建設される世界的な観光都市。租税回避地(タックス・ヘイブン)で法人税が0%なことからWeb3関連の企業などが多く移る傾向にありましたが、2023年6月から法人税9%を導入することが発表されました。
ビザ名 | ワンイヤー・ヴァーチャル・ワーキング・プログラム |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 287ドル |
条件/必要事項 |
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備考 | 6ヶ月連続でドバイを離れるとビザは無効になる |
アフリカ【モーリシャス】
アフリカ地域でも、一部の国がワーケーション対応のビザを発行しています。
モーリシャス
モーリシャスは南半球インド洋にある島国で、アフリカ、マダガスカルの東側に位置します。
島の大きさは東京都とほぼ同じ。滞在可能期間1年間の「プレミアム・トラベル・ビザ」を発行しています。
ビザ名 | プレミアム・トラベル・ビザ |
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滞在可能期間 | 1年間 |
費用 | 不要 |
条件/必要事項 |
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備考 |
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中南米【メキシコ】
中南米も観光業への依存度が高い地域で、ワーケーション政策がなされています。
メキシコ
太平洋やメキシコ湾を臨むビーチの他、手つかずのジャングルやマヤ文明の遺跡なども残り、多彩な風景が楽しめる国です。180日間滞在できる、一時滞在許可証を発行しています。
ビザ名 | 一時滞在許可証 |
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滞在可能期間 | 180日間 |
費用 | 不要 |
条件/必要事項 |
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備考 | メキシコ現地で報酬を得ることは不可 |
以上が、ワーケーションやリモートワークを推奨するビザを発行している国や地域でした。
想像以上にたくさんの国がワーケーションやリモートワーク向けのビザを発行していることに驚かれた方もいるのではないでしょうか。
国によって内容・条件・ルールはさまざまですが、今後コロナによる各国の入国規制の緩和が進めば、発行国や利用者が増加し、会社の従業員やメンバーから海外からのワーケーション勤務を相談される日が来るかもしれません。
山咲 かもめKAMOME YAMASAKI
企業内起業家、兼ライター。建築・金融・不動産業界にて15年働いた経験を活かし、企業の新規事業開発やマーケティングをサポート。休日はフォトグラファーとしても活動中。2020年に個人で不動産投資を開始、将来の夢はメガ大家さんになること。