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せっかくの「働き方改革」が、従業員のやる気を削いでしまう理由

2024/03/26 Tuesday
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働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。今回は、各々の時間で働くことができるフレックスタイム制・フレキシブルワークがジェンダーギャップに与えるメリットと注意点について考えます。

フレキシブルワークは、ジェンダーギャップの解消にも要因にもなり得る

人的資本経営の重要性が高まり、働き方・職場での仕事のあり方についてのイベントや記事を毎日のように目にするようになりました。実際に以前と比べ、働き方に関する関心度は高くなっているでしょう。

職場におけるジェンダーギャップ解消も喫緊の課題となっており、3月8日の国際女性デーでも数多くの企業が女性のエンパワーメント向上のために、さまざまなソーシャルキャンペーンを実施していました。

そんな中で、リモートワークの普及とともに多くの会社でフレックスタイム制など、フレキシブルな時間で働くことが当たり前の権利のように普及してきています。私も子どもがいますが、子どもがいると中抜けしたり送り迎えの時間の調節などがしやすくフレキシブルな働き方は必須と感じますし、子どもがいなかったとしてもその日の体調や繁閑に合わせて働けることは良いことであるのに間違いありません。特に、女性活躍を推進する上で、リモートワークと共にフレキシブルに働けるように労働時間を柔軟にすることは必要だと思います。

フレキシブルに働けることは職場のジェンダーギャップを解消するのにも有効であると言われていますが、一方で「フレキシブルワークのみ」に頼っていると、逆にジェンダーギャップが生まれてしまうという研究を今回はご紹介します。

Peters et al.(2019)の「Forget about ‘the ideal worker’: A theoretical contribution to the debate on flexible workplace designs, work/life conflict, and opportunities for gender equality」がまさにそれです。

この論文の中では、近年ビジネス界でも聞くようになった「つながらない権利」について言及されています。つながらない権利とは、就業時間後や休みの日には仕事の連絡が来ない、職場とつながらない権利が働く人には保証されるべきといった運動、流れのことです。簡単にいうと、仕事が終わって帰った人は連絡がきても次の日まで返さなくていいことを当たり前にしようということです。

各自がフレキシブルな時間に働く職場において、自分の終業後や休みの日に上司や同僚から連絡が入り、終業後や休みであっても返信した方がいい、返信しなければならないという規範が組織に根付くと、職場でジェンダーギャップが拡大すると先の研究は結論づけています。

ビジネス界でも求められる“つながらない権利”

この研究の中では、上司や同僚からの終業後の連絡に対して返信するということは、仕事以外の時間、例えば家事をしたり育児をしたりする時間が減ることにつながるということが触れられています。

つまり、仕事の時間とそれ以外の時間はトレードオフであり、終業後も仕事の連絡をするということはそれ以外の家事などの時間を減らす、もしくは誰かに押し付けることになります。

そうなると、男性が仕事に時間を費やし、女性が家事などに時間を費やすことが多くなり、結果として、上司や同僚からすると男性の方が模範的な社員のように見え、それが後々の昇進や昇給につながっていくということです。また、そのように返信をしていた人が昇進すると、部下にも同じような対応を求めるので、終業後にも連絡を返すのがどんどん当たり前になり、それができない人が淘汰されてしまうというサイクルが生まれる、このメカニズムが職場内で働くことで職場内のジェンダーギャップが拡大してしまうというわけです。

働きやすい職場を目指してフレキシブルな働き方を推進したのに、結果的にジェンダーギャップを生んでしまったり、長く働ける人が有利になる職場になってしまいます。

上司や管理職をしていれば、すぐに返信を返してくれる人、休みや終業後でも連絡をくれる人を重宝したい気持ちはわかります。自分にとってそういう部下は仕事がしやすく、知りたいことがすぐに知れるのはメリットに感じるでしょう。

ですが、そうやって休みの日や終業後に返信をすることが「当たり前」という職場の雰囲気を作ってしまうことは一部の人を喜ばせる一方、時間に制約はあるもののやる気がある部下を萎えさせてしまうことになります。彼らからすると、「やはり長時間働ける人、休みの日や終業後でも会社のことができるような人じゃないと管理職になれない」と考えてしまうのです。つまり、管理職としてはなんてことないと思っている連絡であっても、それが繰り返されると長時間労働=善、という職場文化を作ってしまうのだと思います。

制度+不具合を防ぐ仕組みをセットで導入しよう

ここから言えるのは、制度を作るだけでは不十分であり、その制度によって生まれるジェンダーギャップや差異、不具合を防ぐための仕組みや文化をセットで考える必要があるということです。それがないと、良かれと思った行為も、いつの間にか特定の誰かにとってのみ働きやすい職場を作ることになってしまいます。

株式会社キャスターでは、顧客への連絡時間を9:00-17:00までと定めていて、それを顧客にも伝えています。究極的には、17:01に来た連絡に関しては次の日に返信するということを徹底しています。

やる気のある人であればあるほど、17:01にきた連絡であれば良かれと思って返信してしまったりしますが、それが繰り返されるとだんだん17:00までというサービス終了時間が曖昧になってしまいますし、後任の人もイレギュラー対応することを求められるようになってしまいます。それが繰り返され、気づくと徐々に長時間労働になったり、終業後に返信をすることが当たり前になってしまうのです。

働きやすい職場作りのためにルールを決めたのにも関わらず、実態としてそのルールを守らないことが当たり前の職場になってしまっては、余計に従業員のモチベーションが下がってしまいます。「ウチの会社は口だけだ」となってしまうからです。

「制度によって解決する」は素晴らしいことですが、実際には制度を作るだけではうまくいきません。
本当に働きやすい職場、差異が生じない職場を作るための仕組みや文化を作るための多面的な能力が人事担当や経営者には求められる時代になっているということだと思います。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。