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そもそも「リスキリング」とは何か?本来の意味と目指すべきゴール

2023/07/20 Thursday
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最近、よく聞くようになった「リスキリング」という言葉。しかし、その本当の意味や目的をご存じでしょうか?
本記事では、IT学習、プログラミング活用のコンサルティングや研修・トレーニングを提供する株式会社プランノーツ 代表取締役・高橋宣成さんに「リスキリング」の歴史や本来の意味について伺いました。

いつから注目?「リスキリング」の歴史

日本では2020年頃から「リスキリング」という言葉を頻繁に見かけるようになりました。日本政府も、岸田文雄首相が第210回 臨時国会の所信表明演説の中で、個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じると表明するなど、リスキリングについて本格的に取り組む姿勢をはっきりと明示しています。

そもそも、リスキリングブームが始まったとされるのは、2018年の世界経済フォーラム年次会議(通称:ダボス会議)からと言われています。この年から3年連続で「リスキル革命」と銘打ったセッションが行われました。

また、2020年の「仕事の未来レポート」では「労働の自動化により、2025年までに8,500万人分の雇用がなくなり、9,700万人分の新しい仕事が生まれる」との予測が発表され、大きな話題となりました。

従来の雇用の減少や新しい仕事の誕生が語られる背景にあるのは、AI・ロボットなどの急速なデジタル技術革新です。

たとえば、1998年にGoogleが誕生し、人々は世の中のさまざまな知識に「検索」という行為を通してアクセスできるようになりました。2007年にはiPhoneが誕生し、ほとんどすべての人が常にインターネットにつながっている、そのような社会が現実のものとなりました。さらに、2022年にはChatGPTをはじめとする生成AIサービスが急速に普及しました。AIが、人と会話しているような自然な文章を生成できるようになったのです。

このような先端技術は、これまで人が担わざるを得なかった仕事を肩代わりしてくれる、言い方を変えると、奪っていくことになります。技術革新が起きる限り、「人がやることで価値がある仕事」というのは変わり続ける──だからこそ、それに合わせてスキルをアップデートしていく必要があるのです。

しかし、これだけ見かける言葉にも関わらず、リスキリングとは誰が、何を、どうするものなのか、あやふやなまま言葉だけが独り歩きをしているようにも見えますし、いろいろな解釈が存在しているようにも見えます。

そこで、本記事ではリスキリングとはそもそもどういったことを指すのかをはっきりさせていきたいと思います。

「リスキリング」の各社の定義とは

まず、よく引用されている定義が、リクルートワークス研究所による以下の表現です。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされる大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

「リクルートワークス研究所」より

次に、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの定義はこうです。

新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと

「一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ」より

そして、別の定義として米・IBMの定義も存在しています。

市場ニーズに適合するため、保有している専門性に、新しい取り組みにも順応できるスキルを意図的に獲得し、自身の専門性を太く、変化に対応できるようにする取り組み

「米・IBM」より

いずれも、同じようなことを表現しているように見えますが、いかがでしょうか。

まず、「スキルを獲得すること」が共通して含まれているのはたしかです。しかし、その目指すところをよく見比べてみましょう。

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブでは、「新しい業務や職業に就くこと」がゴールであると明言しています。リクルートワークス研究所でも「新しい業務」または「変化に適応するためのスキル獲得」がゴールとして設定されています。

では、米・IBMの定義ではどうでしょうか。こちらでは「変化に対応できるようにする」とあります。

このニュアンスの違い、わかりますでしょうか。前者は、未来のいずれかに「点」を打ち、そこを目指すという姿勢です。一方で、後者は未来のいずれかに「点」を打つことではせず、未来でいつ起こるかわからないが、いずれ起こる変化に適応できるようにしておくという「連続的」な取り組みを表しています。

「リスキリング」は終わらない。学ぶ土台を築こう

冒頭でお伝えしたとおり、新しい技術は次から次へと登場しています。そして、その影響範囲はますます広く、影響を及ぼすスピードはますます速くなっています。一度、スキルを獲得して新しい業務に就くことができたとしても、時代の流れとともに、また新たなスキルを獲得する必要性は生じます。

ですから、リスキリングは連続的なものとして取り組むのが良いと私は考えています。つまり、スキルを獲得することを目指すのではなくて、スキルを獲得し続ける土台を整えるということです。

たとえば、Aというスキルを獲得したとしても、次のBというスキルの獲得に失敗してしまうことがあります。それよりも、そもそもAもBも、そしてそれ以外のあらゆるスキルにおいて獲得する成功率を上げることを目指す方が、長期的にははるかに効果的です。そのような、どのようなスキルも獲得しやすい、実践しやすい状態ができていることを、スキルを獲得し続ける土台と表現しています。

なお、ニュースなどではリスキリングの和訳として「学び直し」という表現が用いられていることがあります。字面からすると、今までのことを捨てて、それとは別のことを学ぶというニュアンスとも捉えられます。

しかし、米・IBMの定義をご覧いただければわかるとおり、保有している専門性など既存のスキルを捨てることはなく、むしろそれを「太くする」ことですので、捨てるという概念は含まれません。ただ、新しい技術の登場により、持っている一部のスキルが新技術で代替できるようになるということはあるかもしれません。

まとめますと、リスキリングというのは、変化に適応できるようにスキルを獲得し続ける、連続的な取り組みのことです。決して、ある点に到達した時点で終了するというものではありませんので、常にスキルをアップデートできる、そのような土台を整えておくことをおすすめしています。

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高橋宣成NORIAKI TAKAHASHI

株式会社プランノーツ代表取締役。一般社団法人ノンプログラマー協会代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。最新の著書に『デジタルリスキリング入門』。他著書に『Pythonプログラミング完全入門 ~ノンプログラマーのための実務効率化テキスト』『詳解! Google Apps Script完全入門[第3版]』等。