働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。
今回は、最新のリモートワークの研究結果と考察を紹介します。
リモートワーク研究の現在地
2020年以降、リモートワークは働き方の1つとして定着してきましたが、経営や経済の研究でもリモートワークは注目され始めています。「WFH RESEARCH」というサイトには最新のリモートワークの研究や記事、データなどがまとめられていて、毎年1回スタンフォード大学でもリモートワークにおける最新研究を発表するカンファレンス「Remote Work Conference」が開催されており、2024年は10月に行われました。
このカンファレンスはオンラインでも参加可能で、私も一部オンラインで参加し、議論を見学していました。今回は、発表されたいくつかの研究を紹介し、リモートワークの最前線についてお伝えします。
1. リモートワーク移行が与える成果への影響
まずはリモートワークの生産性についての研究です。
①Shift to Remote Work, Performance, and Learning
【概要】トルコの主要コールセンターを対象に、完全なリモートワークへの移行が従業員の成果に与える影響を分析した研究
【結果】リモートワーク移行後、コールセンターでの1時間あたりのコール数が増加した。各コール所要時間が短縮され、全体の生産性が向上した。サービスの品質や顧客評価には影響がなかった。性別・年齢・既婚/未婚でパフォーマンスへの影響は見られなかった。オフィスでの経験が学習に重要な影響を持つことが判明した。
【考察】リモートワークは生産性向上につながった。ノートPCとインターネット支援などがスムーズなリモートワーク移行を可能にし、サービス品質の低下を防いだ。オフィス勤務経験が学習にとって重要である。
2. 出社回帰が従業員の在籍に与える影響
次に、リモートワーク廃止や出社回帰に関する研究です。
②Return to Office and the Tenure Distribution
【概要】コロナ後におけるオフィス復帰政策の経済的影響を分析することを目的としている。研究では、Microsoft、SpaceX、Appleなどの企業における従業員の履歴書を企業データと照合し、復帰政策が従業員の在職期間や役職に与える因果効果を調べている。
【結果】長期勤務の従業員ほど、オフィス復帰政策導入後の在職期間が短くなる傾向が見られた。
【考察】オフィス復帰政策がシニア従業員の流出を引き起こし、その結果として企業の生産性、革新性、競争力に対して潜在的な脅威を与える可能性があることが示唆された。
3. リモートワークと女性の働き方
次に、性別や属性によってリモートワークが与える影響の違いについて、です。
③Does the Ability to Work Remotely Alter Labor Force Attachment? An Analysis of Labor Market Flows Across Prime-Age Individuals
【概要】リモートワークが労働市場の結果に与える影響を、特に働き盛り世代の女性と、幼い子どもを持つ働き盛り世代の女性に焦点を当てて分析している。
【結果】リモートワークの普及が女性の労働市場参加を向上させた。出産期においてこの効果が顕著である。コロナによってリモートワークが普及し注目されたが、リモートワークによる労働市場への影響はパンデミック以前から長期的に形成されてきたものである。
【考察】一律にオフィス勤務を求める方針は、性別間の労働市場格差を悪化させる可能性がある。特に、出産期や育児期の女性には、柔軟なリモートワーク政策が必要である。一部の大企業が生産性向上などを理由に、週5日のオフィス勤務を求める動きがあるが、この方針が女性労働者にとって不利益になる可能性が懸念される。
4. リモートワークとAIによるコミュニケーション
最後に、AIやbotがリモートワークのコミュニケーションにどう影響を与えるかという研究です。
④The CEO Bot:Generative AI and CEO Communication at an All-Remote Firm
【概要】リモートワーク環境における組織コミュニケーションのパターンをAI活用で分析した研究である。
【結果】ハイブリッド環境では、対面・非対面で異なるコミュニケーションパターンが観察された。AIによるCEOのBotを使った実験では、従業員はメッセージの発信源(人間かAIか)を59%の確率でしか正確に判別できなかった。
【考察】ハイブリッドワーク環境では、対面・非対面の状況に応じて従業員が異なるコミュニケーション戦略を採用していることがわかった。AI技術はCEOのコミュニケーションスタイルを模倣できるものの、従業員のAIに対する心理的バイアスが、メッセージの受け取り方に影響を与えた。
上記以外にもたくさんの研究が発表されていますが、リモートワークは世間一般で言われている生産性が高い or 低いといった二項対立の議論ではなく、あらゆる場面で私たちの働き方や生活に影響を与えていることがわかります。
興味がある方はぜひ「Remote Work Conference」で詳細を見てみてください。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。
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