コロナ禍で加速したリモートワークですが、アフターコロナでリモートワークから出社型へ戻す判断をする企業も見受けられます。
アップル社、グーグル社、メタ社などでは週3出社を義務づけるなどの動きもありますが、相対的には企業にどのような動きがあるのでしょうか?
データから、リモートワークの現在地を探ります。
「リモートワーク→出社」の揺り戻しはデータ上では大きく見られず
2020年の緊急事態宣言で多くの会社が一斉にリモートワークに移行しましたが、最近では出社への揺り戻しが話題になっています。
私も品川駅や東京駅に行く予定があると、人の多さにビックリすることも多く、コロナ禍前の通行量に戻ってきているようにも感じます。
しかし、実際のデータで見てみると、どのくらいの人が出社に戻っているのでしょうか?
そして、それは日本だけなのでしょうか?
スタンフォード大学の経済学者・ニコラス・ブルーム氏は2014年からリモートワークの研究をしている、世界的なリモートワーク研究の第一人者です。そんなブルーム教授が発表した最新のリモートワークについてのデータ「The Future of WFH」のデータから、リモートワークの現在地を調べてみましょう。
まずは、現在のリモートワーク普及率です。
The Future of WFHによると、アメリカ国内においてリモートワークを終日行っている人の割合は約30%。この数値はやや減少傾向にあるものの、2022年4月時点とほぼ同水準で推移しています。
一方、国土交通省が出している令和4年度テレワーク人口実態調査で日本の状況を見てみると、雇用されている人で26.1%、自営業(フリーランス等)の人で26.6%。前年からやや減少しているものの、こちらもほぼ同水準で推移しています。
また、東京都が出しているテレワーク実施率調査結果 5月を見てみると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は44.0%。4月の前回調査(46.7%)に比べて2.7%減少。テレワークを実施した社員の割合は38.2%と、前回(42.0%)に比べて、3.8%減少したものの、テレワークの実施回数は週3日以上の実施が42.4%と、前回(41.5%)に比べて、0.9%増加しているという結果になっています。
たしかに、多少の揺り戻し傾向は見えますが、一気に多くの会社が完全に出社型に振り切ったのかと言われるとデータ上ではそうではなく、リモートワークをしていた会社のほとんどは、そのままリモートワークを継続していると言えそうです。
ハイブリッドワークは生産性が高まるという結果に
次は、求人や働いている人の状況です。
The Future of WFHによると、アメリカ・イギリス・ニュージーランド・カナダ・オーストラリアの5ヶ国では、いずれも求人の10-15%ほどがリモートワーク(フルリモートワークもしくはハイブリッドワーク)の求人になっていて、その割合も大きく減っていることはないようです。
また、リモートワークをしている産業はIT・金融・プロフェッショナルサービスが上位3つを占め、この比率は日本で見てもあまり変わらなさそうです。しかし、The Future of WFHの中で注目したいのが、アメリカに至ってはリモートワークをしていている人の男女比はほぼ同じで、どちらも30%弱であることです。男女の働き方において、差が少ない環境であることがうかがえます。
さらに、リモートワークが職場や仕事に対してどんな影響をもたらすかについても記載されています。
まず、従業員数の増え方についてですが、リモートワークできる日が増えれば増えるほど、従業員が増えるスピード・割合が高くなっていて、フルリモートワークの場合とフル出社の場合を比べると3%ほどの差があります。
また、気になる生産性については、フルリモートワーク・ハイブリッドワーク・フル出社で比べた場合、最も生産性が高くなったのはハイブリッドワークで働いている会社でフル出社と比べて約1-3%ほど生産性が上がるというデータが出ています。要因として、リモートワークによって静かに自分の仕事に集中できること、出社がなくなったことでより仕事に時間を充てられたり、リフレッシュの時間が取れていることが大きいとのことです。
逆に、このレポートではフルリモートワークの場合はフル出社に比べて約10%ほど生産性が下がることが報告されていますが、オフィス縮小などができることもあり、会社としてのコストが10-20%ほど減り、トータルではプラスの影響になることが示唆されています。
フルリモートワークで生産性をあげるためには?
最後に、次の2点が結論づけられています。
1)Hard to justify fully in person (dominated by organized hybrid)
2)Hybrid vs Remote is about trade offs (e.g. productivity vs costs)
データから見る限り、フル出社を正当化するのは難しいというのが1点。ただし、フルリモートワークとハイブリッドワークはトレードオフの側面があるというのがもう1点です。
私たちキャスターではフルリモートワークで会社を運営していますが、フルリモートワーク環境でのどういった働き方や行動、意識によって生産性が高まるのかは、データ上ではまだ明らかになっていません。
今後、フルリモートワークの会社が増えていくことが予想されるなかで、フルリモートワークで生産性も幸福度も上げていくには何が重要なのかが少しずつ明らかになっていくのではないかと思います。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。