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育児・介護じゃなくてもOK。「短時間正社員」3つの企業側メリット

2024/09/12 Thursday
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キャリアの選択肢が広がるなか、「短時間正社員」という働き方が注目されています。その名の通り、フルタイムよりも労働時間が短い正社員のことですが、企業にはどんなメリットがあるのでしょうか。その背景や実態をまとめました。

育児や介護に限らず「短時間で働く正社員」という選択肢

育児や介護をしている社員が、時短制度を使って1日6時間ほど働くケースは多いでしょう。実際に企業には、3歳未満の子どもを育てている社員や要介護の家族がいる社員が希望した場合、時短制度を設ける義務があります。

これを拡大し、働き手が、育児や介護に限らずさまざまな事情や希望に基づいて時短制度を使えるようにしたのが、「短時間正社員」制度です。厚生労働省は短時間正社員について、「フルタイム正社員と比べて所定労働時間が短く、かつ以下の2つの条件に両方とも該当する正社員」と定めています。

①無期限の労働契約を結んでいる
②時間当たりの基本給やボーナス、退職金などの算定方法がフルタイム正社員と同じ
※フルタイム正社員は、1週間の所定労働時間が40時間程度

形態としては、1日の労働時間を短くする「短時間勤務」と、1週間の労働日数を限定する「短日勤務」の2種類があります。週○時間や月○○時間といった時間の設定はもちろん、繁忙期に応じてシフト制にすることも可能です。職種の特徴や、現場の働き方、繁忙などを鑑みて、制度を設計していきましょう。

キャリアもライフスタイルも多様化していることが背景に

短時間正社員が注目される背景には、個人のキャリアに関する選択肢が広がっていることがあります。

転職や副業が一般化したり、一部の企業ではリモートワークやハイブリッドワークが定着したりと、以前にはなかったようなキャリア形成、働き方が当たり前になりました。
例えば、定年後にもキャリアを積みたいシニアや、パラレルキャリアをするためにフルタイム勤務が難しい人、病気の治療をしながらも無理なく働き続けたい人、スキルアップに向けてリスキリングの時間を確保したい人などにとって、短時間勤務は有効な選択肢になります。

正社員でありながら柔軟な働き方をかなえ、さらに正社員ならではの待遇を得られるのも大きなメリットです。例えば健康保険や厚生年金といった社会保険、有給休暇などの福利厚生を使えます。社会保険の適用対象は「101人以上の事業所で働く短時間労働者」とされていましたが、2024年10月からは51~100人の事業所にも拡大されます。

導入する企業にとってのメリット3つ

正社員でありながら柔軟な働き方ができるとあって、働き手のニーズに合った魅力的な短時間正社員制度。企業にとっても複数のメリットがあります。具体的に3つご紹介します。

意欲・能力の高い人材を確保できる

経営視点でのいちばんのメリットは、正社員としての採用対象者が広がるため、優秀な人材を採用したり人手不足を改善したりできる点です。優秀であるにも関わらず、さまざまな理由でフルタイム勤務が難しいためにキャリアを諦めていた人材が対象に含まれ、対象の範囲が広がります。時間制限がある社員も、優れた能力と高い意欲を生かして活躍すれば大きな戦力になります。

さらに、柔軟な働き方ができること、新しい働き方を導入していることなどは企業ブランディングにも有効で、採用市場で有利になると考えられます。とくに中小企業や地方の企業を中心に、採用や人材の定着に悩んでいる企業は多いので、短時間正社員が有効な選択肢になるでしょう。

本人のエンゲージメントやモチベーションが上がる

現在パートタイムや業務委託、アルバイトなど非正社員として働いているメンバーも、短時間勤務を前提とすれば正社員に転換できる可能性があります。正社員になって処遇が上がると、本人の中で会社へのエンゲージメント・帰属意識が高まったり、モチベーションが上がったりする効果が見込めます。

安定した勤務形態になることで、自分自身のキャリアや将来を、より長期的な視点で考えられるようになるでしょう。当然、組織にとってもポジティブな影響が期待できます。

多様性が増し、マネジメントのレベルアップ、業務効率化を狙える

フルタイム勤務に限らず、いろいろな働き方、バックグラウンドを持つ人材が入ることで、組織の多様性が増します。マネージャーのマネジメントレベル向上や、短時間でも効率よく業務を行おうと工夫する分、業務効率化が進むことなどが考えられます。

多様性には、性別や国籍、病気の有無などの表層的な要素と、スキルや価値観などの深層的な要素の2つがあります。組織に短時間正社員が加わることで、表層・深層の両面で多様性を高めることができます。

なお、組織の多様性は、業績にも影響を与えます。多様性を示す6要素(出身国、他の業界で働いた経験、キャリアパス、性別、学歴、年齢)が平均以上の企業は、「収益に占めるイノベーションの割合が平均19%、税引前利益が平均9%高い」という調査結果(※)があり、両者の相関関係が示されています。

※出典:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「組織の多様性はどこで、どのように業績を高めるのか

短時間正社員制度を導入する際の注意点4つ

働く個人にも企業側にも魅力的な短時間正社員制度ですが、導入する際には注意点もあります。

  • ほかの社員やマネージャーに、業務のしわ寄せがいかないように業務を調整する。例えば、制度の導入と合わせてアウトソーシングサービスを検討し、属人化を防ぎながら業務改善を進める。
  • 法規制の変化をウォッチしておく。社会保険制度の適用や福利厚生の利用など、短時間正社員に関する社内ルールを明確化する。あいまいな要素を排除することで、使いやすい制度にしていく。
  • 「パートタイム・有期雇用労働法」により、正社員と非正規労働者との間で不合理な待遇は禁止されている。短時間正社員と非正規労働者の待遇が均等になっているか確認する。
  • 制度導入のタイミングでは、新しい雇用形態のため、短時間正社員本人に不安が生じがち。キャリアの将来性や待遇、勤怠などを明示し、本人の不安を払拭していく。

国も短時間正社員制度を後押ししており、支援制度を用意しています。厚生労働省の「キャリアアップ助成金」がその1つで、非正社員を正社員化した場合に助成金を受け取れます。助成額は中小企業で最大80万円、大企業で最大60万円で、場合によっては人数に応じた加算も受けられます。

柔軟な働き方の一例として、これから広がっていきそうな短時間正社員制度。国の助成制度も含め、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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