リモートワークや副業・複業、フリーランスなど、ここ10年で私たちを取り巻く働き方や組織のあり方は大きく変化しました。個の時代とも呼ばれ、会社に所属するかどうかに捉われずキャリアを模索する人も増えてきています。
個人の働き方の変化は、会社組織のあり方にも影響を及ぼすことは容易に想像がつきますが、まさに新しい形の起業、会社形態を取る人たちが欧米を中心に増加し、注目されてきています。
それが「マイクロプレナー」「ソロプレナー」という起業家たちです。
「マイクロ(小さな)」と「アントレプレナー(起業家)」を組み合わせた造語なのですが、起業家のなかでも、従業員が5名以下または1名(代表)のみなどの小規模な事業を行う人を指します。1人で起業し、事業を行う場合は、「ソロ(1人)プレナー」とも呼ばれます。
起業という選択がより身近になってきた昨今、1人で小さな会社を立ち上げる人口が増えてきたことから、シリコンバレーなどを中心に10年ほど前にこの言葉が登場しました。世界最古の広告代理店・Wunderman Thompsonが発表する2022年のトレンド(グローバル・トレンド予測レポート「The Future 100」2022年版)にもランクインするなど注目が集まっている働き方、起業のあり方の1つです。
「マイクロプレナー」や「ソロプレナー」の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員がごくわずか/代表のみ
- 従来のオフィススペースを持っていない(バーチャルオフィスや自宅などで仕事)
- 小さな課題/小さなターゲットに絞る
- 仕事の多くの部分を自分で担う
- 副業や業務委託などのメンバーでチームを構成する
日本でも「マイクロプレナー」や「ソロプレナー」の形態で仕事をしている起業家は少なくありません。コミュニケーションはSlackを使い、予定管理はGoogleカレンダー、ドキュメント管理はNotion、日程調整はSpir、会計はfreeeやマネーフォワード、契約書はクラウドサインなど…必要な機能が揃っている便利なSaaSサービスがたくさんあり、それらを使いこなすことで1人もしくは少人数であっても事業を運営していくことは容易になっています。
また、フルタイムの社員を雇用せず、リモートアシスタントサービスや副業メンバー、フリーランスなどを集め、バーチャルなチームを作ることで専門的な業務を遂行することも可能です。
「マイクロプレナー」「ソロプレナー」は会社規模を大きくすることを目指していない形態ですが、このような流れは会社規模を大きく成長させていくことを目指しているスタートアップにも見られます。
実際に周囲のスタートアップでも、総勢50〜100名規模で事業を運営している会社なのによく内訳を聞いてみると、役員・社員は3〜5名程度で、専門的な役割に関しては副業メンバー、フリーランスで関わるメンバーをアサインし、バックオフィス業務をリモートアシスタントなどに依頼するなどで運営されている会社は非常に増えました。
スタートアップは、事業や組織が変化するスピードが早く、突発的に専門的な知見や経験を持った人材が必要になります。これまでであれば、社員で働く人を探すという一択になりがちでしたが、現在であれば副業、フリーランス、個人で会社経営している人、オンラインでのアウトソーシングなどさまざまな手段があります。
会社のステージや任せる業務の難易度によって複数ある選択肢の中から柔軟に選択し、いかに社員を増やさずにスピード感を持って事業運営をしていくかはこれからのスタートアップ、特に初期のスタートアップにおいて求められるノウハウの1つだと言えるでしょう。
そしてそのノウハウを持っており、最先端の組織運営、企業運営をしているのは、これまで小さな存在だと思われていた「マイクロプレナー」「ソロプレナー」たちです。
まもなく、「マイクロプレナー」「ソロプレナー」から社会で注目を浴びるサービスや私たちの生活をより豊かにする事業などが生まれるようになるでしょう。
そして、それを発展させ、社員数は5名だけど関わっているメンバーは1000名以上、というような新しい組織のユニコーン企業が出てくる未来はそう遠くないかもしれません。
石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。