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「若い頃に長時間ハードに働いた方がいい」が間違っているワケ

2024/10/10 Thursday
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働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。

今回は、主に2つの切り口から「若い頃はハードに働け」「量が質を担保する」などの従来の働き方に対する価値観に一石を投じます。

「若い頃はハードに働け」は本当に正解か?

社会人になりたての頃、残業も厭わず、それこそ深夜まで猛烈に働いていたーー世代によりますが、そういう経験がある方もいるのではないでしょうか。かくいう私も、1社目のリクルートはかつて「大統領のように働き、王様のように休む」と言われていた会社であり、それなりにハードに働きました。2024年現在は、残業時間などの規制もされ、働き方は大きく変わっているようですが、当時は深夜まで働くことも珍しくありませんでした。人によって程度の差はあれど、私より上の世代では、同じようにハードに長時間働いた経験をした人は少なくないのではないでしょうか。

しかし、現在は以前のように猛烈に働く、長時間働くということはしなくなってきています。働き方改革が行われ残業時間の規制が強化されたことに加えて、副業の解禁によって複数の仕事をする人も増えていることも背景として考えられます。また、管理職の罰ゲーム化と言われるほど管理職の負担が増えていることから、ハードに働いてまで管理職になりたい人、出世を希望する人が減っているという話も見られます。

そのような状況に対して、40代以上のビジネスパーソンから「若い頃ハードに働けないのは後々の成長に影響する」「量をやらないと質が上がらない」といった意見が度々上がります。SNSの反応を見ても、そのような考え方がまだ根強く残っていると感じることもしばしばですが、このような考え方は根本的に間違っていると私は考えています。今回はその理由とともに今後、部下に対して何を求めるべきなのかを書いていきます。

「優秀」であることの価値観の変化

なぜ、上述したような考え方は間違っているのでしょうか。

まず1つ目に、「長時間働いてアウトプット量を増やす」ことはカンタンな働き方だからです。

例えば、会議までに3つの資料をまとめなければならない状況だとします。その資料を10時間かけて作るのと、3時間で作るのではどちらが難しいでしょうか。間違いなく、難しいのは後者です。長い時間かけて1つの成果物を作るのは誰でもできることだからこそ安易な方法であり、工夫が必要ありません。しかし、それを1/3以下の時間で作れ、となったら工夫が必要ですし、1時間あたりのアウトプット量を3倍以上に増やさなければなりません。つまり、質的に非常にハードな仕事をすることが求められるわけです。小さなことで言えば、エクセルを使って手計算していたものをコードを書いて自動化する、ChatGPTなどの生成AIツールを駆使して、数秒で作成するなど、最新のツールを使いこなして仕事をすることが求められ、資料作りの手順なども見直しが必要でしょう。

このように1つひとつの仕事を工夫することが求められますし、結果として非常に高い生産性が求められます。以前のようにとにかく「量」や「時間」をこなすことで仕事をやればいい時代は終わり、現代は限られた時間の中で以前と同じ量や質以上の成果を出すことが求められてきます。以前とは優秀な人の価値が変わっているということです。

だからこそ、安易に長く働くことで解決するのではなく、決められた時間の中で以前と同じかそれ以上の成果を出す訓練を課すべきです。これまでとは違うスキルや考え方が必要なので、長時間労働でカバーしてきた人からすると大変なチェンジかもしれません。しかし、世の中で求められている価値が変わっているのだから、仕事の仕方も変えなければいけないと思います。

致命的な総労働時間の減少

次に、長時間働くことで成果を上げるという働き方をできる人自体が減ってきていることも「ハードに働くこと」や「量>質」の価値観が変化している理由です。

例えば、現在は結婚している女性の約70%以上が共働きをし、介護などで働く時間を制限せざるを得ない人も増えています。さらに、これから若い人の人口は減っていくわけですから、どんなにみんなが長時間働いたとしてもどんどん社会全体の総労働時間は減っていってしまいます。

つまり、長時間働いて成果を出すという働き方自体がすでに持続可能ではありません。今はまだどの会社も事業が好調になると人を増やす(採用する)ことで対処をしていますが、今後は新しい人を採用すること自体がどんどん難しくなります。そうなった場合、人を増やせないのでそれ以上に業績を拡大できない会社と、人は増やせないけど1人ひとりの生産性を上げ続ける仕組みで業績を拡大できる会社の2つに分かれていくことになるでしょう。

また、政府が男女の賃金格差解消を掲げていますが、男女の賃金格差の主な要因の1つに「働く時間の長さ」があることはさまざまな研究で明らかになっています。男性に比べて女性の方が家事や育児などに費やす時間が長いため、労働時間は男性の方が長くなりがちで、その結果として男女の賃金格差が開いているということです。もし、今後も「長時間働いて成果を出す」という働き方しかできないのであれば、この差を埋めることはできません。格差が解消されない会社は若い人からどんどん見放され、優秀な人が集まりにくくなることは容易に想像できます。

結果として、長時間働くことでしか成果を上げられない → 男女格差が埋まらない → 若い人中心に人が集まらない → さらに長時間働く以外の手がない → 業績拡大できずに給与も上がらない、という負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。だからこそ、時間を短くしても同じ成果を上げられる仕組みをどう作るかというゲームに早く転換すべきだと考えています。

長時間働いて量をこなしたから今があるーーそう思う方も少なくないでしょう。私もそう思うことはあります。ですが、すでにそのやり方は終わっており、これからは短い時間でも、量をこなさなくても同じスキルをつけることが求められる厳しい時代になっています。だからこそ、私たちがした苦労と同じものを求めるのではなく、これからに必要なスキルを身につけることに思考を転換することをオススメします。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。