働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。今回は、テキスト時代のコミュニケーションにおいて重要なこと、注意すべきことについて考えます。
テキスト時代のコミュニケーションの正解とは
令和の時代でオフィスワークをしていれば、個人差はあれど、毎日とてつもない量のテキストを書いたり読んだりしていることでしょう。仕事のメール、チャットはもちろん、プライベートのやりとりもLINEなどのチャットでおこなっている人は少なくないと思います。私たちは毎日大量のテキストに溢れて生活をしています。
かく言う私も、2016年から約8年間、全従業員がフルリモートワークで働く株式会社キャスターを経営し、毎日のように大量のテキストコミュニケーションをしていましたし、現在でもテキストでのコミュニケーションが中心です。
経営して2年ほど経過した時に気づいたリモートワークのTipsの1つに「空気を読まずに文字を読む」という言葉があります。これはリモートワークのTipsではありますが、毎日大量にテキストを送り合っている現代のオフィスワーカーにもそのまま当てはまるものでもあります。
もっと言えば、「空気を読まずに文字を読む」ができない人には、「言っても仕方ない」「あの人に何か送るとめんどくさいのでやめておこう」となってしまい、情報があまり入って来ず、気づいたら自分だけ真実が見えていない「裸の王様」になりかねません。今回の記事では、なぜそうなってしまうのかを書いていこうと思います。
「空気を読まない」「解釈を加えない」が鉄則
テキストでコミュニケーションする際に大事なのは「読めない空気まで読まないこと」です。
例を挙げると、いつも「!」が文末についている人からの返信が、その日は「了解しました」だけだったとします。そうすると、「あれ怒ってるのかな?」「なんか失礼なことしたかな?」などと考え出す人は少なくありません。最近、ニュースにもなっているマルハラ( 最近の若者は文末の「。」が怖く、新しいハラスメントとも言われている)も同じような状況と言えるかもしれません。
また、相手の文面だけでは何が言いたいか理解しきれないのに「これはどういうことですか?」と聞かずに、自分なりに解釈をすることが正しいことであると思っている人は多いのではないでしょうか。
このような考え方やコミュニケーションは一見正しそうに見えます。対面かつ口頭でコミュニケーションをとっていた時は、それが良しとされていたからです。ただ、それが可能だったのは言葉以外の表情や声の大きさ、トーン、態度などの情報から総合的に判断しやすかったからです。ところが、テキストコミュニケーションになると受け取れる情報はテキストのみ。基本的には、画面に映っている文字から判断しなければならないのです。
対面の時と同じように空気を読んで勝手に解釈したり、決めつけてしまうと、相手の意図とずれてしまう可能性は高くなります。テキストコミュニケーションこそ、キャッチボールの回数は多くすべきですし、わからないことはわからないと伝えるべきで、書いてある「事実」以外を読み取ろうとしてはいけません。
仕事だけでなく、日常やSNSにも応用できる
また、これは仕事に限りません。私たちは生活におけるコミュニケーションの少なくない割合を「テキスト」で行っています。家族やパートナー、友人とはLINEでやりとりし、仕事の連絡もMessengerで行うという人もいるでしょう。XやInstagramもコメントのやりとりはテキストです。つまり、実生活を行なっていく上で「空気を読まずに文字を読む」スタンスは全員にとって求められているものであると言えます。
先日、とある人にこんなことをDMで言われました。「石倉さんは女性を応援する立場なのに、なんであのツイートに“いいね”したんですか?」と。また、こんなことも追加で言われました。「“いいね”するということは賛成しているようなものですよ」。
それを聞いて私は「なるほど」と思いました。該当のツイートは女性の賃金が上がっていないことを示すグラフだったのですが、私に直言をしてきた人は、“いいね”することは、「女性の賃金が上がっていないこと」に賛成しているから“いいね”したのだと解釈していました。そして、該当のツイートをした人(仮にAさんとします)がそのグラフをツイートした意味は、「女性をバカにしている」と解釈していたようでした。
つまり、Aさんがツイートした事実と私がそこに“いいね”した事実ではなく、その行為の奥にある意図や狙いなどを自分なりに解釈して、勝手に憤慨していたのです。
私にとって”いいね”は賛同の意味もあれば、ブックマークに近い役割でしていることもあります。“いいね”をどう使うかは人によって異なりますが、私に直言してきた人にとってそのことは考えにないようです。
こういったことが積み重なって炎上騒ぎになったり、SNSで言い争いになったりしているケースは多いのだろうなと感じる出来事でした。そして、その要因の1つが「空気を読む」ということ、さらに「解釈をすること」が事実として書かれていることを素直に読むことよりも優先されすぎていることにあると思っています。
個人の解釈によって起こるズレは侮れない
さらに、テキストにおける別のミスコミュニケーション例を挙げます。
施策リスト
1、xxxxx
2、yyyyy
3、zzzzz
このように書いてあった時、あなたはどう読むでしょうか。書かれた事実だけを列挙すると以下が言えます。
・施策が3つある
・その内容が書いてある
しかし、これを読んで1→3の順で優先度が高いという前提で議論してしまう人がいました。
「どの施策をメインにする」「優先度はこれが高い」などは一切書かれてないのに、優先順位の高いものから書かれていると解釈していたのです。
その人曰く、「1番上に書いてあったら、優先度が高いと読み取りますよね、普通」とおっしゃってました。しかし、それは個人の解釈であり、普遍的な事実ではありません。その人が読みたいように読むとそうなる、ということでしかないのです。
テキストを受け取る人がこのような解釈を繰り返してしまうと、テキストを書く人、伝える人はとてもしんどくなります。人がどう解釈するかを推測しながら書かなければならないと、無駄な情報を列挙し続けないといけなくなるからです。
そんなしんどい思いをしてまでアイデアや意見を伝えるのはめんどくさくなってしまうでしょうし、究極的には「じゃあ全部自分でやれば?」となってしまいかねません。
このように、テキスト時代では、文章が読めない人や独自に解釈してしまう人には情報が入らなくなり、人が集まらなくなります。なぜなら、湾曲されるリスクが高いと、無難なことだけを報告するようになるからです。
人からの指摘や意見がなくなると、自分だけ真実が見えないまま「裸の王様」状態になっていき、どんどんズレていきます。テキストで大量にやりとりする時代において、管理職や経営者をはじめ、あらゆる人にとって、文章が読めないこと、事実を超えて独自解釈してしまうことは、圧倒的に損なので、注意したいところです。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。