歯止めのきかない少子化。2023年の出生数は75万8631人と、22年から5.1%減少しました。存続すら危ぶまれる自治体が続出する中、なんとか少子化を食い止めようと手厚い子育て支援を展開している自治体が続々と登場しています。独自性ある4自治体の、具体的な取り組みを紹介します。
キャリアと子育ての両立を支援する、千葉県松戸市
日経xwomanと日本経済新聞が毎年行っている「共働き子育てしやすい街ランキング」2023年版で、3回目の総合編1位に輝いた松戸市。その子育て支援の充実ぶりは広く知られており、「キャリアと子育ての両立」に主眼が置かれています。
例えば、待機児童数は「9年連続ゼロ」を達成(2016〜24年度)しています。その大きな要因が、市内にある全23駅の駅前や駅ナカに小規模保育施設を設置していること。小規模保育施設とは、6〜19人の定員で0~2歳児(原則)を預かる少人数保育施設です。いずれも交通利便性の高い場所にあるので、毎日忙しい共働き夫婦にとって強い味方です。
子どもが3歳になり小規模保育施設を卒園した後は、市内の主要な駅前10カ所に設置された「送迎保育ステーション」を使うことで、働き方を変えずに幼稚園に入園することも可能です。幼稚園の登園前と登園後の時間の保育をしてくれて、幼稚園への送迎も行ってくれます。
松戸市の独自策として、市内で働く保育士への援助を行っていることも挙げられます。例えば、勤続年数に応じて給料を上乗せ(1~11年目は45,000円、12年目以降は49,800〜78,000円)、新卒保育士には月額30,000円を上限に家賃を補助、保育士になるための修学資金を最大72万円貸付・援助しています。
保育士は平均年収が391万3,700円と、全職種の平均496万5,700円と比べて100万円以上も低い(※1)職種です。松戸市は単に保育施設などのハード面を整備するだけではなく、保育士の待遇も改善することで保育士の人材確保につなげ、豊かな保育環境を実現しているといえます。
そして、子どもが小学校に入学した後の共働き夫婦を待ち受けているのが、いわゆる「小1の壁」問題。この問題への対策として、松戸市は市内にある全45の小学校区に学童施設を整備。平日は19時まで、土曜日は18時まで子どもを預かる環境を作っています。
こうした取り組みの結果、松戸市の住民満足度は高くなっています。同市が行ったアンケート調査(※2)によると、約6割が「松戸市は子育てがとてもしやすい/しやすい」と回答しています。日本全国を対象とした意識調査(※3)では、「自国が子どもを生み育てやすい国だと思うか」という質問に対して、61.1%が「全くそう思わない/どちらかといえばそう思わない」と回答しています。松戸市は全国と比較して子育てしやすい環境であり、市民がそのことを実感している状況が見て取れます。
※1出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
※2出典:松戸市「松戸市子ども・子育て支援に関するアンケート調査報告書」(平成31年3月発表)
※3出典:令和2年度「少子化社会に関する国際意識調査」報告書
不妊治療から大学通学まで、切れ目ない支援が特徴の福島県南相馬市
「人生のあらゆる場面での切れ目ない支援」を掲げる南相馬市。出産から進学、結婚など各ライフステージにまんべんなく支援をしているのが特徴で、2023年7月には、日本子育て支援協会の「第4回日本子育て支援大賞」(自治体部門)を受賞しました。
南相馬市は、ライフイベントに関する祝い金や支援金が豊富です。例えば第3子以降の誕生時に30万円、小学校入学時に10万円が支給されます。近年取得率が高まっている男性育休に対しても支援があり、7日以上の取得で5万円、1カ月以上の取得で20万円が支給されます。
そんな南相馬市のいちばんの特徴は、義務教育修了後の市民をもサポートすることです。例えば「巣立ち応援18歳祝い金支給事業」と称して、一定の条件を満たした18歳に門出の祝い金5万円を支給しています。市民の笑顔に「さぁ、行っといで。」のキャッチコピーが載ったポスターは、若者の背中を後押しする優れたプロモーションとしてSNSで話題を呼びました。
ほかにも、大学や専門学校に進学する人への定期代補助や、無利子で資金を貸し付けて、条件を満たすと返還を一部免除するなどの支援があります。結婚すると「結婚新生活支援事業助成金」として、共に39歳以下の夫婦に対し住宅費や引越費、家具・家電の購入費などを一部支給します。
子どもを授かりたい人には、不妊治療への支援もあります。一般不妊治療の自己負担分に対して年間10万円まで、生殖補助医療の自己負担分に対して年間20万円まで、さらに男性の不妊治療に対しても年間10万円まで、すべて最大2回助成されます。さらに先進医療や保険診療外の治療に対しても一定額の補助があるので、安心して治療を進められそうです。
2022年に市民3,000人を対象として行われた意識調査(※4)でも、教育・子育て分野に「満足」または「やや満足」と答えた人は多く、とくに「保育・幼児教育の充実」(28.8%)「子育て環境の充実」(27.0%)が高く評価されました。
※4出典:南相馬市 市民意識調査 調査結果報告書(2022年8月発表)P23
トップレベルの子育て支援を本気で目指す、大分県豊後高田市
「2024年版 住みたい田舎ベストランキング」(宝島社『田舎暮らしの本』)で、「人口3万人未満の市」全4部門で全国1位を獲得した豊後高田市。12年間連続で「ベスト3以内」を達成している唯一の自治体です。
そんな豊後高田市は、「地域の活力は人」を掲げて、子育て支援に注力しています。「ふるさと納税で集めた寄付金を、すべて子育て支援に使う」と宣言する本腰の入れよう。トップレベルの子育て支援を本気で目指すという気合いがみてとれます。
とくに独特の取り組みといえるのは、5歳児から中学生を対象とする市営の塾「学びの21世紀塾」です。2002年度からスタートしたもので、住民が講師となって子どもたちに教え、学習をサポートするというシステム。市内の小中学生の多くが利用しているといいます。地域にいるシニアの人材活用という観点からも有意義な工夫といえるでしょう。
子どもを望む市民にも手厚く、不妊治療にかかる費用の補助として1年度あたり15万円を上限として助成されます。不妊治療は一定の条件下で保険適用となっていますが、それでも患者の経済的・精神的負担は大きく、自治体の支援があれば安心材料となるでしょう。
豊後高田市は、妊娠や子育てそのものへの支援に加えて、移住・定住の支援策も充実しています。例えば、多くの自治体で採用されている「空き家バンク」がその1つ。豊後高田市では、UJIターンによる定住希望者に物件の見学会を行ったり、空き家バンクで購入した物件のリフォームに対する奨励金を出しています。
さらに、新規の就農支援も行っています。豊かな山と海に囲まれた豊後高田市は米や白ねぎ、春そばなどの生産が有名で、移住に加えて就農を希望する人もいます。市では農業体験から研修、就農、経営開始〜安定まで長期にわたりサポートしています。
農業は高齢化や人手不足が深刻な業界で、全国でも新規就農者数は減少傾向にあります(※5)。こうした自治体のサポートを受けて、就農に一歩踏み出す人が増えれば、モデルケースになりえるのではないでしょうか。こうした数々の独自施策が実って、豊後高田市は2014年から10年連続で、人口の社会増(転入者が転出者を上回ること)を実現しています。
※5出典:令和4年新規就農者調査結果
「地域で子育て」を体現する島根県邑南町(おおなんちょう)
広島県との県境に位置する、人口約1万人の邑南町。人口減少への対策として、2011年度に「日本一の子育て村構想」を打ち出しました。子育て支援の目玉は、「第二子から保育料を全額無料」「中学校卒業まで医療費が無料」の2つ。2011年時点でこの内容を実現していた自治体は多くなく、全国の先をいく事例であったといえます。
そんな邑南町の特徴は、地域全体で子育てに向き合っていること。実際に市が掲げるキーワードは「地域で子育て」です。
例えば子育て中の親を地域住民が援助する仕組み「ファミリーサポートセンター」がみられます。子育てのサポートを得たい「たすけて会員」と、サポートをする「まかせて会員」をつなぎ、保育所や学童への送り迎え、迎え前の預かりなどを行います。預けられる子どもは0歳から小学校6年生までと幅広いため、多くの子育て世帯が利用できます。
なお「まかせて会員」に保育士や教師などの資格は必要なく、救急救命講習などを受講して必要なスキルを習得すれば参加できます。地域の子育てに関わりたい地域住民に広く開かれ、「地域で子育て」を体現しています。
また邑南町では、「2060 年に 10,000 人の人口維持をめざす!」として、移住・定住の促進策を推進しています。単にUIターンを誘致するだけではなく、子育て世帯の流入を想定して、移住後のフォローを手厚く整備しているのが特徴的です。
例えば、仕事の紹介や、空き家の紹介、病院などの案内、地域住民コミュニティとの仲介など。さまざまな角度から移住前の不安を取り除き、定住後のフォローも行います。米やぶどうなどの生産が盛んな邑南町では、農業や林業の新規就労支援も行われています。
こうした取り組みが功を奏し、邑南町はUIターンでの移住者が多く、また20~30代の移住者も一定数を占めています。
この記事では、少子化を食い止めるために独自の子育て支援を展開している自治体の具体的な取り組みについてご紹介しました。子育て支援につきものなのが「移住・定住の促進」。今回取り上げた4自治体も、UIターンをはじめとする移住者を増やそうと、独自の取り組みで移住支援に力を入れている様子がわかりました。
今は自分のライフスタイルや生き方に応じて、暮らす場所を選ぶ時代です。企業の経営者には、自社のメンバーが働く場所にとらわれず、移住を含めた広い選択肢を検討できるよう、柔軟にサポートする姿勢が求められるでしょう。
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さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。