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「言った方が早い」は早くない。“書いて”こそ組織のスピードが上がる

2022/09/13 Tuesday
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リモートワークやチャットツールの普及で注目されるようになった「テキストコミュニケーション」。でも、正直書くのは面倒くさい…。仕事をする上で「話す」と「書く」は果たしてどちらが早いのでしょうか──

テキストコミュニケーションを避けられない現代

リモートワークやチャットツールの普及によって、仕事で文字を書いて伝えること、いわゆる「テキストコミュニケーション」をする機会は以前よりも増えたのではないでしょうか。

私が取締役をする株式会社キャスターではメンバー全員がフルリモートワークをしているため、基本的にはテキストコミュニケーションで業務を進めていくのが当たり前です。毎日800名以上のメンバーがテキストにまみれながら仕事をしています。

また、リモートワークをしているかどうかに関わらず、議事録やマニュアルなどをドキュメントにして残すことは業務をするなかで必須となりつつあり、「書いて伝える」という作業は日々の仕事のなかで避けて通れなくなっています。ただ、正直「書いて伝えるのは面倒くさい」「直接話した方が早い」と思っている方は少なくないのではないでしょうか。

何を隠そう、私もずっとそう思ってました。

もちろん、「ドキュメントに残す」「やりとりの履歴を残す」「タスクを見える化する」──これらが重要なのは理解しています。でも、「正直めんどくさい…話して伝えたら一瞬で終わるし…」そう思っていました。

ここ6年はずっとリモートワークで働いていますが、たしかにテキストでは表現しきれないこともあり、口頭でのコミュニケーションを行った方が理解できること、理解が早い場面はたくさんあります。

「言った方が早い」は本当に早いのか?

でも、これって本当に「早い」んでしょうか?

たしかに、AさんとBさんが2人で話しているだけであれば、直接言った方が早いこともたくさんあるでしょう。ただ、仕事においてはほとんどの場合、2人だけのコミュニケーションで完結することはありません。会社やチーム、少なくとも関係するメンバー数名には情報を伝える必要があります。

AさんとBさんが2人で直接話してコミュニケーションをとっていた場合、他の人に共有する際にはCさん、Dさんの前でもう一度同じことを説明しなければなりません。さらに、そこに新しいメンバーとしてEさんが入社してきたら、Eさんにもまた同じ話を伝える作業が発生します。

トピックが1つだけならまだしも、仕事に必要な過去の出来事やルールなどは多岐にわたります。その全てを誰かが新しく入るたびに何度も何度も繰り返し伝える必要が出てきます。

これって、本当に「早い」でしょうか。

たしかに、1対1で話すその瞬間は「早い」かもしれません。
でも、先ほどの例を見ても、何度も何度も同じコミュニケーションを取らなくてはならないのであれば、中長期的に見ると確実に「遅い」です。

私もリモートワークで働くようになって、実は「『言った方が早い』は早くない」と実感しました。気づくのが遅くなってしまったのですが、とても重要なことに気づいたと思っています。

私も昔はそうでしたが、「直接話す」という選択を取ることは、その場しのぎの「早く」「ラク」な手段に逃げてしまっているとも言えます。

テキストで残すのは面倒くさいかもしれませんが、800名規模のフルリモートワーク企業を経営していて確実に言えることは、「書いて残すことこそが、組織のスピードを上げる」ということです。

未完成な情報やプロセスも“書いて”残す

だからこそ、私は仕事をする上で「書く」ことにこだわっています。

テキストで仕事を進める文化を作ることは、スピーディーに事業推進をしていく上で非常に重要です。

最近では「Notion」というドキュメント管理ツールを主に使っていますが、会議の議事録はもちろん、業務マニュアルや働く上でのルール、人事制度や事業戦略の詳細など、ほぼすべてを書いて残しています。雑談もSlack上での「書く雑談」が圧倒的に多いです。

書くコツやTipsは細かくあるのですが、完成した完全な情報だけでなく、途中経過や試行錯誤している様子、頭の中で考えていることのメモなど、あえて未完成な情報も残すようにしています。

これらを当たり前にやるようになってから、チーム・組織として全体のスピードは明らかに上がりました。

決定事項やルールだけが記載してあるのではなく、その過程で考えてきたことや実行してきたことなどが全て残っているので、初見のメンバーでも過去の文脈含めて理解することができます。だからこそ、新しく誰かが異動してきたり入社してきても、早くそして解像度高くキャッチアップしてもらいやすいですし、誰かが休んだとしても他のメンバーがサポートしやすくなります。

なぜこういう運用をしているのか、なぜこういったバリューができたのか、このルールを作った背景は何か、この機能の狙いは何だったのかなど…過去の「why」や「what」を1つひとつ口頭で説明していたら時間がいくらあっても足りません。また、それを知っている人がいなくなり、ドキュメントが残っていなかったら「なんで、これはこういう仕様なんだっけ?」という疑問が生まれても、誰も答えられなくなってしまうかもしれません。

当たり前は「武器」になる

こうして説明すると、当たり前のことのように聞こえます。実際、当たり前のことしか言っていません。でも、今まで当たり前のことを当たり前に実践できている会社や人は少なかったのではないでしょうか。

言うのは簡単ですが、やるのは難しい。そして、定着させることはさらに難しい。

なんとなく重要なのは分かっている、でも実際にうまくやれている会社、きちんと運用できている会社は多くありません。だからこそ、当たり前にできるレベルになれば会社の資産や武器になりますし、それだけで会社や事業のスピードを上げ、競争力になります。

まだ少人数の会社であっても、初期の頃から始めることでメンバーが増えてきた後からジワジワと効いてきますし、一回定着してしまえば当たり前のこととして続いていきます。結果として、一気にチームが拡大してもコミュニケーションコストが爆増せず、新入社員のオンボーディングがスムーズにいったり、副業やフリーランスの人も受け入れやすく活躍してもらいやすいチームが作れたりすることに繋がります。

個々人の働き方が多様になればなるほど、コミュニケーションは非同期が進みます。その時代のチームでは、「言うより書く方が早い」のです。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。