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「部下に期待しない上司」が、実は部下を幸せにできるワケ

2023/10/26 Thursday
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管理職になると、「仕組み化」を求められる場面が増えます。しかし、仕組みをつくり、成果を生み続けることは容易ではありません。

では、うまく「仕組み化」して成果を上げている管理職に、共通点するものとはなんでしょうか?事例とともにご紹介します。

管理職に求められる「仕組み化」とその事例

仕事をしていると、「仕組み」という言葉を聞かない日はないのではないでしょうか。

管理職になると、特にその傾向は顕著かもしれません。管理職に求められるのは、自らがハイパフォーマンスを出すプレイヤーとして活躍することではなく、「仕組みを作り、多くの従業員が安定して成果を残せるようにすること」、または「日頃やるべきことがつつがなく回っている状態を作ること」だからです。

しかし、この「仕組み」という言葉は、言うのは簡単ですが、実現するのはかなり難しいものです。仕組みの作り方を教わることもないですし、実際に体系的に学べる機会もほとんど存在しません。つまり、これだけ「仕組み」にすることが重視され、大事にされているにも関わらず、仕組みの作り方は「仕組み化」されていないのです。

ここで1つ、仕組み化の成功例がこれでもか、と紹介されている本を紹介します。

それが、株式会社リクルートで『ホットペッパー』事業部長を務め、同事業の立ち上げに携わった平尾勇司氏の著書『Hot Pepper ミラクル ・ストーリー』です。

『ホットペッパー』は今はほとんど街で見ることはなくなりましたが、20年ほど前、飲食店のクーポン情報を集めたフリーペーパーとして生まれ、瞬く間にリクルートの中でも主力事業になりました。

そのユニークなビジネスモデルはもちろん注目されるところですが、それ以上にホットペッパーを拡大する上で著者が中心となって作り上げた「徹底した仕組み」は、管理職をやっている人であれば一読の価値ありといえますし、一度は目を通しても損はありません。詳細は本を読んでほしいのですが、ここでは簡単に紹介します。

1. 最もニーズが高いであろう飲食店にターゲットを絞る(それ以外はやらない)
2. ホットペッパーの広告サイズは複数あるが、1つのサイズを4週連続で販売するというパッケージを作り、そのパッケージを営業が徹底的に売れるようなロープレ、資料作り、営業施策を行う
3. 営業専任のスタッフを一気に採用するために新たな職種を会社に作り、採用から育成までをパッケージ化し、全国に拡大する
4. トップセールスや成績上位者のトークや営業手法が必ず全営業に共有される
5. マネジメント手法などの統一をする

などなど、挙げればキリがないですが、圧倒的に「仕組み化」されています。

つまり、ある意味で一定基準を満たす人であれば入社してすぐに成果を上げることができる、また多くの営業が一定以上の成績を残し続けられるようになっているわけです。だからこそ、あっという間に全国展開を成功させ、数年でリクルートの主力事業に成長したのです。

「仕組み作り」が上手い人に共通することとは?

平尾氏だけでなく、仕組み作りが上手い人には共通点があります。それは、「人の能力に頼らない」ことです。

誤解を恐れずに言えば、「人に期待していない」と言ってもいいと思います。見方を変えれば「優秀な人に合わせず、普通の人に合わせている」とも言えるかもしれません。

通常、仕事をしていると、どうしても他人に期待してしまいます。「このくらい言わなくても考えてくれるだろう」「みんな自分で工夫するだろう」「やるべきことができなければ努力するだろう」などです。

もっとも、それは悪いことではありません。ですが、良い仕組みを作ろうと考えるのであれば、他人に期待することは、排除しないといけない考え方でもあります。

私も、仕組み作りの際に周囲から「仕組み作りが上手い」と言われることがありますが、いつも考えているのは「普通の人がみんなできるようになること」、そして「能力を頑張って引き上げなくても多くの人ができるようにすること」だったりします。

例えば、前職で営業部門の担当部長に就任したときのことです。その部署は、2年近く業績未達が続いており、かつ根性論ともいえる風土が根づいていました。そこで、私は徹底的に仕組み化し、多くの人が達成率100%付近までは到達できるようにしようと考えました。

そのときに手をつけたことは、以下のようなことです。

1. 営業時に注力するカテゴリーを3つだけに絞り込み、その3つは徹底的に獲得できるようなトークスクリプトやFAQを準備する
2. 月次で管理していた目標を、週次で管理に変更。毎週の業績をもとに翌週以降の営業計画を修正するというサイクルを定着させる
3. KPIを「顧客との有効商談数」たった1つに絞り、可視化する

そして、それを全員に共通して課し、徹底してやり続け、結果として、1年後には在籍メンバーの90%以上が業績を達成していました。

しかし、私は営業担当1人ひとりのスキルを上げるような取り組みは何1つしていません。むしろ、トークなども全員全く同じでいいので、それでも受注できるようなものに磨き込み、ターゲットも絞ることに注力したのです。結果として、新卒であろうが、中途入社してすぐの社員であろうが、すぐに即戦力として成果を残すこともできました。

「誰でも、全員ができる」のが仕組み化

そうやって徹底的に仕組み化していくと、優秀なメンバーは勝手に自分でコツを掴んでハイパフォーマンスを残していきます。もちろん、その工夫やノウハウを全員に共有しますが、それを全員ができることは求めません。なぜなら、それが全員できるのであれば、すでにやれているはずだからです。

「仕組み」は誰でもできるようになっていなければいけません。コンビニでもファーストフード店でも、バイトが初めての高校生からシニア層、外国の方まで働けていますが、それは徹底的な仕組みがあってこそできるのです。

そして、その仕組みを秀逸なものにするための根底には、「人に期待しないこと」があります。人に期待しないからこそ、どうやったら全員ができるようになるかを徹底的に考えるし、戦略も磨かれます。

『ホットペッパー』にしても私の例にしても、ターゲットを思い切って絞っていますが、これは勇気のいることでもあります。それでも誰でもできる「仕組み」にするためには、そういった意思決定は必須です。

秀逸な仕組みができれば、多くの社員が業績を達成したり、成果を上げたりすることができ、そうなると彼らは会社から評価されることになります。そして、結果的に彼らは社内のさまざまな部署から声をかけられ、活躍する場が増えることに繋がるのです。

それを知っているからこそ、仕組みを徹底的に作る人は「人に期待しない」仕組みを作ります。つまり、人に期待せずに、誰もが成果を出せるようにすることが、結果として多くの人を幸せにするということなのです。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。