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スタートアップ創業初期の労務業務はどうすべき?

2022/12/20 Tuesday
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スタートアップ創業初期、社長一人の会社であれば労務業務の作業量は限られますが、社員を雇い始めると負担は大幅に増加します。

設立直後のスタートアップ企業では専任の労務担当者がいないことが大半で、社長自らが労務を兼務することも少なくありません。しかし、労務業務ばかりに時間が取られ、本業にかける時間がなくなってしまっては本末転倒です。

本記事では、設立直後の会社が直面する労務の課題と、労務業務にどのように対応すべきかを紹介します。

※2022年12月時点の情報をもとに執筆しています。

クラウド労務サービスCASTER BIZ HR
監修:CASTER BIZ HR

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会社設立直後に発生する労務業務

まずはじめに、会社を設立し従業員を雇用する場合の主な労務業務の内容を紹介します。

都度行う手続き

従業員を雇用し始めると発生する労務では、主に次のものが挙げられます。

労務項目 内容説明・留意点
従業員の入社手続き ・雇用契約締結
内定承諾された後、労働条件を提示し、同じ内容が記載された雇用契約書を締結

・社会保険の加入手続き
入社後5日以内に「健康保険・厚生年金保健 被保険者資格取得届/厚生年金保健70歳以上被用者該当届」を年金事務所(または事務センター)に提出

・雇用保険の加入手続き
入社の翌月10日までに「雇用保険 被保険者資格取得届」をハローワークに提出

・住民税の手続き
入社の翌月10日までに従業員が住む市区町村へ切り替え手続き

従業員の退職手続き ・社会保険資格喪失手続き
退職した日の翌日から5日以内に「健康保険・厚生年金保健 被保険者資格喪失届/厚生年金保健70歳以上被用者不該当届」を年金事務所(または事務センター)に提出

・雇用保険資格喪失手続き
退職した日の翌日から10日以内に「雇用保険 被保険者資格喪失届」「雇用保険 被保険者離職証明書」をハローワークに提出

・住民税の手続き
退職日を含む月の翌月10日までに従業員が居住する市区町村に「給与支払報告に係る給与所得異動届」を提出

従業員の被扶養者に関する手続き ・従業員が家族を被扶養者にするときは、事実発生から5日以内に「健康保険 被扶養者(異動) 届/ 国民年金 第3号被保険者関係届」を年金事務所(または事務センター)に提出
給与額が大幅に変わるとき(随時改定)の手続き ・従業員が昇給や降給などで、標準報酬月額が2等級以上変更となったときは、すみやかに「健康保険・厚生年金保健 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保健70歳以上被用者月額変更届」を年金事務所(または事務センター)に提出
賞与の支給に関する手続き ・賞与支払日から5日以内に「健康保険・厚生年金保健 被保険者賞与支払届/厚生年金保健70歳以上被用者賞与支払届」を年金事務所(または事務センター)に提出
有給管理 ・入社6カ月後に有給休暇を年10日付与し、付与された従業員に対して、年5日の有給取得を促進

月次で行う手続き

毎月行う労務の主な手続きには以下のようなものがあります。

労務項目 内容説明・留意点
勤怠データのチェック ・従業員の勤怠状況を確認し、残業や休日出勤の時間を把握
・月80時間超の残業・休日出勤を行う等により疲労の蓄積等が認められる従業員は医師の面談を実施
給与計算・明細発行 ・休日割増賃金や残業代を計算
・基本給に割増賃金や残業代、通勤手当、住宅手当などの手当てを加え、総支給額を計算
・総支給額から所得税や住民税、健康保険、厚生年金保険などの社会保険料を控除して、支給額を計算
・差引支給額の計算方法について給与明細を作成
・給与支給日に各従業員の銀行口座に振り込み
源泉所得税の納付 ・給与から控除した源泉徴収税を、給与支給日の翌月10日までに税務署に納付
(従業員が常時10人未満の会社は、6ヶ月分まとめて年2回の納付が認められている)
住民税の納付 ・給与から控除した住民税を、給与支給日の翌月10日までに従業員が居住する市区町村に納付
(従業員が常時10人未満の会社は、6ヶ月分まとめて年2回の納付が認められている)
社会保険料の納付 ・従業員の給与から控除した社会保険料・介護保険料・厚生年金保険料を、給与支給日の翌月末までに納付

年次で行う手続き

毎年決まった時期に行う労務には以下のようなものがあります。

労務項目 内容説明・留意点
住民税納付額改定 ・各市町村から1年分の住民税納付額通知書が届く。通知書に基づき、給与システムで各月の住民税控除額を変更
社会保険の算定基礎届 ・社会保険料の計算根拠である標準報酬月額について、実際の給与額と大きな差がないか、3カ月間(4月、5月、6月)の報酬月額を元に年に1回見直し
・7月10日頃までに「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」を年金事務所(または事務センター)に提出
労働保険の年度更新 ・毎年4月1日から翌年3月31日までの労働保険(労災保険・雇用保険)の保険料を概算で申告・納付
・前年度に申告・納付した保険料を精算
・毎年6月1日から7月10日までに納付
社会保険料の定時改定 ・算定基礎届に基づき、社会保険料改定通知書が届く。通知書に基づき、給与システムで各月の標準月額報酬等級を変更
年末調整 ・各従業員の1年間の実際の所得税額と源泉徴収された所得税額を比較し、過不足を計算
・12月の給与で過不足税額を精算し、従業員に源泉徴収票を配布
・翌年1月31日までに源泉徴収票や法定調書を税務署に提出
給与支払報告書 ・年末調整で確定した給与支払報告書を各市町村へ提出
健康診断手配 ・事業者は従業員に対し、医師による健康診断を受けさせる義務あり
・少なくとも年に1回健康診断できる医療機関を手配

労務業務を委託するときの注意点

これまで説明した通り、労務業務は幅広くかつ煩雑です。
事業規模拡大を第一の目標とするスタートアップ企業の社長や社員が兼務するには、限界も見えてきます。

そこで労務業務を外注するという選択肢がありますが、注意すべきことは「社労士にしかできない独占業務」の存在です。

社労士以外の人が有償で独占業務を行った場合、違法行為とされ罰則が課せられます。
この独占業務については、社会保険労務士法に定められた、いわゆる1号業務と2号業務が該当します。

では、どのような業務か次から説明していきましょう。

一号業務の主な内容(申請業務と手続き代行)

社労士の1号業務は主に以下の内容で、労働や社会保険に関する法律上の申請書類の作成や手続き代行業務です。

  • 労働保険の書類の作成・提出代行
  • 社会保険や雇用保険などへの加入・脱退手続き
  • 労働災害発生時などの申請・給付手続き
  • 各種助成金の申請など

二号業務の主な内容(法令に基づく帳簿書類の作成)

2号業務は、労働や社会保険に関する法律に基づく帳簿書類の作成業務で、主に以下の内容です。

  • 労働者名簿や賃金台帳の作成請負
  • 就業規則や雇用契約書の作成
  • 各種労使協定の作成 など

なお、常時10名以上の従業員を雇用する企業には、就業規則の作成が義務づけられています。

会社設立直後の労務業務の選択肢

上記の通り、会社設立直後の多忙な企業にとっては、労務業務は相当な負担となるでしょう。
これらを踏まえて、労務業務を自社でおこなうのか、社労士等の専門家に委託するのかを検討してください。

労務管理を遂行する主な選択肢は、以下の3パターンです。

① 労務管理サービスの利用・社労士専任業務ともに自身で

一人社長や社員を雇わない家族経営の会社、または経営者や社員に十分な労務管理能力がある場合などには有効な選択肢です。

都度業務や月次業務は労務管理クラウドサービス等を利用し、労務管理サービスで対応できない部分のみ自身で行う方法で、まだ規模の小さい会社であれば対応可能と言えます。

ただし、労務面での知識が十分でない場合は誤って申告したり、給与計算を間違ったりするリスクがあるので注意が必要です。

② 労務管理サービスの利用は外注、社労士専任業務を自身で

日々継続して発生する月次業務や都度業務を専門家に委託することで、労務の負担を大幅に減らせます。

また労務に詳しい専門家の助言をもらうことができるため、経済産業省の「IT導入補助金」や厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」などを活用できる可能性もあります。

一方で、定期的に発生する社労士専任業務の負担はまだまだ重く、上記①の方法同様にミスが生じ、無駄な時間とコストを費やしてしまうリスクは払拭できません。

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③ 労務管理サービスの利用を外注、社労士専任業務は社労士に

日々の勤怠管理から給与計算、労働や社会保険に関する法律上の申請対応まで全て外部委託する方法です。

労務業務を完全に外注することで、経営者の負担が大幅に軽減され、本来取り組むべき業務に注力できます。

スタートアップ創業初期のおすすめ

上記①〜③の選択肢のなかで、スタートアップ創業初期におすすめなのは、ズバリ③です。

創業初期はとにかく「時間」が大事です。
スタートアップは成長すればするほど従業員を採用しますが、従業員数が増えると労務の負担も増大します。

労務関連書類の作成や行政への申請等を自社でおこなう①や②の選択肢は、労務知識が身に付くという意味では有効ですが、労務の知識を調べながら自ら実務まで行うと、さまざまな問題や手戻りなどの無駄な手間が発生します。

③の方法(労務管理サービスの利用と社労士専任業務を委託)は、特に早期事業拡大を狙いたいスタートアップ企業におすすめです。

限りある社員の能力と時間は、企業価値を向上させられる「コア業務」へ集中することが好ましく、社員のモチベーション維持の観点でも、できるだけ間接業務を外部委託することが有効と言えます。

また、労務は会社にとってミスができない業務であるがゆえに、社労士などのプロに依頼することでスタートアップ創業初期の経営をより円滑に進めることも可能です。

時間と人材に限りあるスタートアップ創業初期こそ、「労務の外注化」は成長を加速化させる手段になり得るので、是非検討してみてください。

その他、スタートアップ創業初期に役立つ経理情報はこちら

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山咲 かもめKAMOME YAMASAKI

企業内起業家、兼ライター。建築・金融・不動産業界にて15年働いた経験を活かし、企業の新規事業開発やマーケティングをサポート。休日はフォトグラファーとしても活動中。2020年に個人で不動産投資を開始、将来の夢はメガ大家さんになること。