2018年ごろから登場した、スキマ時間にバイトする「スキマバイト(スポットワーク)」という働き方。パイオニアといわれる『タイミー(Timee)』のほか、最近ではLINEヤフー、そしてメルカリと、プラットフォームが次々に新規参入しています。この盛り上がりの背景には、働き方の多様化や人手不足、物価高に伴う副業ニーズの増大など、さまざまな要因があるようです。スキマバイト市場の実態と将来性について探りました。
スキマバイトの市場規模は「前年度比で約3割増」と急拡大中
スキマバイトとは、その名のとおり「隙間時間を利用して、スポット的にバイトする」働き方のこと。履歴書も面接も不要、ほしいときにほしいだけの労働力をすぐ確保できるため利便性が高く、多くの事業者が利用しています。働き手は、プラットフォームを通して勤務先を見つけ、数時間~数日の超短期で勤務して、即日報酬を受け取ります。通常のアルバイトやパートなどと比べ、応募から報酬支払いまでスピーディーに完了する点が特徴的です。
実際、その市場規模は順調に伸びています。矢野経済研究所の調査によると、2022年度のスポットワーク仲介サービス市場(※1)の市場規模は、前年度比30.6%増の648億円、2023年度は前年度比27.2%増の824億円(見込み)。市場規模が2年連続で約3割増という著しい成長率から、スキマバイトが企業にも働き手にも広く支持されていることがわかります。
※1:単発バイト求人情報サービス市場、短期バイト人材紹介サービス市場、人材マッチングサービス市場の3市場の合計。出典:2024年版 スポットワーク仲介サービス市場の現状と展望 ~単発バイト求人情報、短期バイト人材紹介、単発業務マッチング~
市場がこれほど大きな盛り上がりを見せている理由の1つは、各業界で人材不足が深刻化する中、企業の「スポット的に労働力を補充したい」というニーズにマッチしていることでしょう。そのときの業務量に合わせて、希望するタイミングに低コストで人員を補充できます。中長期で固定の人件費をかけるよりもコストパフォーマンスよく労働力を確保できるため、経営上も大きなメリットがあります。
働き手にも、近年の物価高を鑑み副業収入を確保したい、キャリアチェンジを見据えてスキルアップをしたいといったニーズがあると考えられます。実際、Z世代の約4割が「副業中」または「副業に興味あり」というデータ(※2)もあり、若い世代を中心に副業ニーズが増大していることは確かです。
※2:MERY「働き方に関するMERYアンケート」(2024年1月26日発表)
ついにメルカリが参入、プラットフォーム戦国時代へ
ニーズの高まりを受け、スキマバイトのマッチングサービスはいくつも登場しており、まさに“戦国時代”の様相。多くの人がまず思い浮かべるのは、2018年にいち早くサービスを開始した『タイミー』でしょう。飲食関連や軽作業の求人が多く、全国対応という手広さが特徴です。2024年2月時点で累計ワーカー数は700万人を突破、導入事業者数は98,000と、パイオニアとして順調に規模を拡大してきました。
続く2019年2月に参入したのが『シェアフル』。ランサーズとパーソルホールディングスの合弁会社として誕生しました。平均時給が1,200円と比較的高いこと、労働開始の直前まで募集できることが特徴です。アプリダウンロード数は524万超(2024年2月時点)と、広く支持されています。
またLINEヤフーも、2021年から『LINEスキマニ』を展開しています。機能としては、好条件の仕事や特別キャンペーンがLINEで届くサービスが特徴。2024年2月にはマイナビとの業務提携を発表しました。「マイナビバイト」や全国各地のネットワークを持つマイナビと組んで、営業力や商品開発を強化していく狙いです。
そして2024年3月には、メルカリが求人プラットフォーム『メルカリ ハロ』を発表。フリマアプリの雄が参入とあって大きな注目を集めました。現在の登録企業は、コンビニ、飲食・カフェ、アパレル・小売など、一都三県の大手事業者が中心。働き手はメルカリアプリ上で本人確認などを済ませている人限定なので、企業側の安心につながります。
人材補充だけではない。スキマバイトの多様な活用法
自社に合う、優秀な人材を正社員登用
「超短期の即戦力」という活用法が目立つスキマバイトですが、その他の活用法も広まってきています。そのひとつが「正社員登用へのステップ」としての活用法。中長期的な視点で、企業が「自社に合う、優秀な人材」をスキマバイトで見極めています。
例えば 『タイミー』や『シェアフル』は、単発ではなく長期間業務を依頼するために、企業がプラットフォームへの報告や紹介料なしに無料で働き手を引き抜くことを認めています。現場で高く評価された人材を引き抜くことで、教育コストを押さえながら、即戦力を確保できるという仕組みです。
さらに 『タイミー』 は2024年2月、企業が就業実績の高い働き手に正社員登用のオファーを送れるサービス「タイミーキャリアプラス」を発表しました。オファーを受けた働き手は、必要に応じてリスキリング講座を受講しスキルを身につけ、さらにタイミーで職場体験をしてから正社員を目指します。企業側は、一定のスキルを持つ人材を採用できるうえ、事前に働きぶりや志向を確認することで採用のミスマッチを減らすことができます。
『シェアフル』も、正社員の求人と働き手をマッチングするサービス「シェアフルエージェント」を展開しています。生成AIを活用して履歴書や職務経歴書の作成を一部自動化するほか、就業実績をベースに書類選考を一部免除するなど、効率的な正社員登用に向けて工夫をこらしています。
経験豊富な人材を入れて組織のスキルアップ
人手不足が著しい業界を中心に、ニーズが急伸しているスキマバイト。組織の活性化を目的として、経験者や有資格者にスキマバイトで活躍してもらうケースも出てきています。
例えば、コロナ禍からの反動やインバウンド需要の伸びで賑わうホテル業界がその象徴です。帝国データバンクの調査(※3)によると、正社員が不足していると感じている企業の割合がいちばん高い業種が「旅館・ホテル」(75.6%)でした。平均の52.1%と比べてもかなり高い割合で、深刻な人手不足がうかがえます。『タイミー』では、ホテル・旅館のスキマバイト募集人数が、2023年12月に過去最高を記録しました。求人を掲載している事業所数も、前年同月比で約4.2倍と大きく伸びています。
※3:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」
最近は、新規開業を控えたホテルがプレオープン時に、経験者であるスキマバイト人材を活用してオペレーションを調整するケースもあるようです。経験者だからこそ気付ける視点やオペレーションのノウハウを開業前に取り入れることで、単にスタッフの人数を補うだけではなく、より効率的に運営することができそうです。
医療や介護も、同じく人手不足が著しい業界です。例えば看護師や介護士のような資格職は安定したニーズがあり、スキマバイトで活躍しやすい職種といえるでしょう。『タイミー』では介護業界のスキマバイト募集人数が前年同月比で約3.6倍を記録、有資格者の登録数が23万人を突破(いずれも2024年2月時点)しています。
有資格者のスキマバイト登録者が増えたことで、より高度な業務や専門知識が必要な業務も任せられる人材が豊富になりつつあります。組織にとっては、単に人材不足を補うだけでなく、経験豊富な資格職を雇うことで経験の浅いスタッフのスキルアップまで狙えます。
また、一度離職した有資格者が、社会復帰へのファーストステップとしてスキマバイトを活用するケースもあるようです。多少の離職経験やブランクがあっても、経験豊富な資格職なら即戦力として活躍できるでしょう。スキマバイトを使って、コストを抑えながらミスマッチを防ぎつつ即戦力を確保できるというメリットは、人材不足解消と組織活性化を狙いたい組織にとって非常に大きなものです。さらに、スキマバイトの活用に伴ってスタッフのキャリアや保有資格、経験値などに応じた業務の整理、マニュアル化が進めば、組織全体の業務負荷削減にもつながるでしょう。
人手不足にあえぐ企業にとって、雇用にも人材活用にも有効な一手段として支持されているスキマバイト。人材の「補充」ではなく「活用」へ、そして優秀な人材の獲得に向けて、今後さらに広く活用されていくでしょう。
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さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。