国が推進している「リスキリング」。社員のスキルアップを後押しすることは、組織の資産になるとして注目されています。リスキリングを推進するにはコストがかかりますが、公的な助成金制度を活用することで一部をカバーすることが可能です。本記事では、その内容を具体的にご紹介します。
改めておさえたい、「補助金」と「助成金」の違い
今、社員をスキルアップさせたり優秀な人材を確保したりすることが経営者の命題となる中で、リスキリングが注目されています。国や自治体も推進していて、リスキリングをする企業に対していろいろな助成金を用意しています。
公的な経済支援制度としてよく挙げられるのは「補助金」です。補助金と助成金の違いはどこにあるのでしょうか。
補助金は、新規事業や研究開発など特定の目的のために交付されるものです。使用用途が限定されているので、申請しても必ず受けられるわけではありません。管轄は、主に経済産業省や地方自治体です。
助成金は、雇用促進や人材育成、労働環境の改善などを目的として交付されるものです。定められた条件を満たして申請すれば規定の金額を受け取れるのが特徴ですが、中には要件が厳しいものもあります。主に厚生労働省が管轄しています。
本記事では、企業が受け取れるリスキリング関係の助成金を3つご紹介します。
1.人材開発支援助成金(厚生労働省)
「人材開発支援助成金」とは、事業主が労働者に対して、事前に立てた計画に沿って専門的な知識・スキルを身につける職業訓練を実施した場合に、その経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
現在、6つのコースが用意されています。コースごとに助成の対象や内容、金額などが異なるので、自社の事業や目的に合ったものを選んで申請しましょう。中には、中小企業に対する助成金の割合や賃金が高く設定されているものもあります。
- 事業展開等リスキリング支援コース(2026年度までの期間限定)
- 人への投資促進コース(2026年度までの期間限定)
- 人材育成支援コース(有期契約労働者への訓練も対象)
- 教育訓練休暇等付与コース
- 建設労働者認定訓練コース(建設業の中小企業が対象)
- 建設労働者技能実習コース(建設業の中小企業が対象)
特徴としては、一部を除いて助成対象が「正規雇用労働者」であること。正規雇用者のスキルアップをすることで、サステナブルな事業成長につながります。また、企業は申請に向けて職業訓練の計画を立てる必要があるので、安定的なリスキリング推進にもつながります。eラーニングや通信制による訓練も対象になるので、リモートワークとも相性がいいでしょう。
2024年4月1日に制度の見直しが行われ、有給の場合に助成される賃金助成が拡充したり、添付書類が簡素化されたりと、より使いやすい制度になりました。なお一部のコースでは、就業規則に制度について記載する必要があるので、確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金」
事業展開等リスキリング支援コース
人材開発支援助成金のうち、2022年12月に新設された「事業展開等リスキリング支援コース」。6つあるコースの中でも、とくにリスキリングと関係の深いコースです。
助成対象となる条件は、以下の3つです。
- 日常業務と区別できるOFF-JTの訓練である
- 新規事業の立ち上げや新サービスの開発、またはDXやグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために専門知識を習得させるための訓練である
- 10時間以上の職業訓練である
経費助成率は75%、 賃金助成額は1人1時間あたり960円です。ただし、中小企業以外の場合は助成が縮小され、経費助成率が60% 、賃金助成額は1人1時間あたり480円となるので要注意。
なお、eラーニングや通信制の訓練などは経費助成のみが対象となるので、該当する場合は注意が必要です。
2.特定求職者雇用開発助成金の成長分野等人材確保・育成コース(厚生労働省)
「特定求職者雇用開発助成金」とは、企業が、雇用されることが難しいと考えられる求職者を雇用した場合に支払われる助成金制度です。たとえば高齢者や障害者、母子家庭の母などが対象となっていて、そうした求職者の雇用機会を増やし、雇用の安定を図ることが目的とされています。
特定求職者雇用開発助成金のうち、企業が成長分野において就職困難者を雇っている場合に対象となるのが、「成長分野等人材確保・育成コース」です。同助成金のほかのコースよりも、支給額が高く設定されているのが特徴です。
「成長分野等人材確保・育成コース」の中には、「成長分野」と「人材育成」の2つのコースがあります。いずれもリスキリングに関係しますが、支給要件が異なります。
「成長分野」は、対象者を成長分野の専門的な業務に従事させ、人材育成や職場定着に取り組むコース。成長分野とは具体的にいうと、「デジタル分野」「グリーン分野」の2つです。デジタル分野では情報処理・通信技術者、データサイエンティスト、デザイナーなどの業務、グリーン分野では脱炭素・低炭素化などに関する研究・技術の業務が該当します。
該当する業務は、厚生労働省のページで具体的に例示されているので確認しましょう。なお、対象労働者の業務の「主たる部分」が成長分野である必要があります。ごく一部が該当する場合は対象外です。
「人材育成」は、未経験の就職困難者を雇って、人材開発支援助成金による人材育成を行い、賃上げをした場合に対象となるコースです。助成対象となるには、毎月の賃金を、雇入れ日から3年以内に、5%以上引き上げている必要があります。
助成額は2つのコースとも同じですが、事業者や対象労働者の条件によりいくつかのバリエーションがあります。例えば、一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者の場合の助成額は45〜120万円、それ以上の労働時間の場合の助成額は75〜360万円となっています。
参考:厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)」
3.DXリスキリング助成金(公益財団法人東京しごと財団)
「DXリスキリング助成金」とは、企業が従業員に対して、DXに関連した職業訓練をした際に、経費の一部を助成する制度です。対象は、東京都内の中小企業や個人事業主です。申請できる企業には、資本金の額や従業員数などの条件もあるので、確認が必要です。
訓練の内容はAIやデータサイエンス、セキュリティからUI・UXデザイン、経営戦略までかなり幅広く設定されています。例えばDXに向けたマネジメント研修や、リモートワーク環境整備のための情報セキュリティ講座、営業力向上のためのプレゼン講座なども対象に含まれます。
条件は、OFF-JTの訓練であることや、訓練時間が20時間以上であることなど。助成額は助成対象経費の75%で、上限は1人1研修あたり75,000円、1企業あたり100万円です。上限額に達するまで、複数回の申請も可能です。
参考:公益財団法人東京しごと財団「令和5年度 DX リスキリング助成金 募集要項」
リスキリングを推進したい経営者の注意点
このように、リスキリング関係ではいくつかの助成金制度があり、条件を満たせば助成を受けることができます。助成を受ける際、経営者が注意しておきたいのは以下の点です。
・自社の事業や、社員の日常業務に直結するリスキリングを行う必要があります。どんなスキルをどれくらい伸ばせばどのように仕事に生かせるか、改めて棚卸しをしましょう。
・申請する前には、必ず支給要件を確認しましょう。中には、労働者の種別に応じて支給要件が変わる助成金もあります。
・行おうとしている研修や訓練が、助成金の対象となるか確認しましょう。例えば、eラーニングや通信制の場合は助成金額が減ることもあります。
・リスキリング関係の制度について、就業規則に記載する必要があるケースも。就業規則の変更は時間を要するので、最初に確認しましょう。
会社をあげてリスキリングを推進することで、社員のエンゲージメント向上やモチベーションアップも狙えます。これを機に、具体的な取り組みを進めていきましょう。
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さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。