本メディア「Alternative Work」を運営する株式会社キャスターでは、2023年12月に働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」を設立。主に、以下の3つの活動を始めています。リモートワークや新しい働き方の研究、調査を通して、労働バイアスをなくすことを目指しています。
- リモートワークをはじめ、働き方に関するデータを体系的に整理し、働き方の現在地を伝える活動
- キャスター内やパートナー企業のデータを活用・分析し、リモートワークや働き方に関するノウハウを蓄積していく研究活動
- 働き方、リモートワークに関するコンサルティング活動
本記事では、1つ目の活動としてダイレクトリクルーティングの現状や人事・採用担当者のこれからの働き方に関する情報を書いていきます。
ダイレクトリクルーティング時代の本格到来
2010年代後半から、採用活動において採用担当者に求められるスキルや働き方が少しずつ変わってきていることを実感している人は少なくないかもしれません。その要因の1つとなっているのは、本格的な「ダイレクトリクルーティング」時代の到来です。
2000年代までは、企業が採用活動で応募者を獲得するために行うことは、「大手の求人媒体になるべく大きな広告枠を出稿する」もしくは「人材紹介会社に求職者の紹介を依頼する」などが主でした。そのため、当時の採用担当者に求められていたスキルは、どの媒体に出稿するのかを判断したり、どのような文言で求職者にアピールするのかを考えたり、応募してきた候補者の方を見極めたりすることでした。
もちろん、それらのスキルの重要性は今も変わりませんが、現在の採用担当者に求められている最も重要なミッションは「自ら手を動かし、応募者を集めること」「応募してきた求職者に魅力的に思ってもらうこと」です。つまり、待っているだけではなく、自ら求職者に対してアプローチをする必要が出てきているということです。
ここまでは、採用担当者や経営者であれば、なんとなく理解できている内容かと思います。今回の記事では、現在どの程度ダイレクトリクルーティングをはじめとする「攻めの採用」が浸透しているのかについて言及していきます。
IR情報から推定するダイレクトリクルーティングの現状
まず、転職市場の概観を見ていきましょう。
経済産業省の「労働市場における雇用仲介の現状について」によると、2019年時点の年間転職者数は約521万人。最新の統計データでも、令和4年(2022年)の転職者数は約497万人となっており、毎年約500万人前後が転職をしているようです。
その中で、「広告」経由で転職を行う人は年によっても差はありますが、約30〜33%を推移しています。約3人に1人が広告経由ということなので、毎年約150〜170万人前後が広告経由で転職を行なっていることになります。
では、ダイレクトリクルーティングの比率はどのくらいなのでしょうか。これには正確なデータはありませんが、有名なダイレクトリクルーティングサービスを提供している企業のIR情報を整理してみましょう。
まず、ダイレクトリクルーティングといえばビズリーチです。
ビズリーチを運営するビジョナルのIR資料によると、今年度のビズリーチの売上予測は590億円、そのうちダイレクトリクルーティングによる売上比率が約66%。その中で企業が直接候補者にスカウトを送り、採用に至っているのが約70%、人材紹介会社経由が約30%とのことです。
ビズリーチ経由で採用した場合、企業はビズリーチに採用者の年収の15-20%、人材紹介会社は採用者の年収の10%程度を支払うことになります。ビズリーチ経由で採用された人の平均年収を600万円と計算すると、年間で約39,000人がビズリーチ経由で採用されたと推定できます。
同じようにIR資料から推定していくと、Green経由では年間約6,000人前後、Wantedly経由では年間約11,000人前後が転職していると推測できます。
そして現在、日本で最も大きな求人サイトであるIndeedを運営するリクルートのIR情報によると、Indeedは年間300万社が利用しています。この300万社のうち10%の企業が年間に1名ずつ採用していたとすると年間30万人がIndeed経由で転職していることになります。10%の企業だけが採用できているというのは非常に保守的な見積もりですから、Indeed経由での転職者は50万人以上存在していてもおかしくはありません。
ビズリーチ、Green、Wantedly、Indeedの4つの求人サイトだけでも約35万〜55万人が運用型の採用によって転職していることになり、求人広告経由で転職する人の約20〜33%になります。他にも多くの求人サイトが存在することを考えると、転職者の半分程度はダイレクトリクルーティングをはじめとする運用型の採用経由で転職しているかもしれません。
採用の「専門職化」。これからの人事・採用担当者に求められるものとは?
現在、存在する求人サイトの多くが求人広告掲載をするだけではなく、採用担当者が自らスカウトを候補者に送り、応募を集めることが求められます。また、IndeedやWantedlyをはじめ、多くの求人サイトでは採用担当者が自ら求人広告の作成・更新を常に行なっていく必要もあります。
つまり、採用活動は「掲載型」ではなく「運用型」に完全に移行しているといえます。
これは、企業が販促を行う広告がGoogleやfacebookなどの運用型広告へ移行したことと全く同じ流れとも言えます。運用型になり、かつ求人サイトごとの運用ノウハウが求められるようになってくると、採用担当者の仕事、中でも特に「応募獲得」のスキルは専門職化してきます。
実際、アメリカでは「リクルーター」というポジションは専門職になっており、自社にリクルーターがいない会社は外部のプロフェッショナルに依頼をし、応募獲得業務を依頼するのが主流です。ある調査では、アメリカ国内でリクルーターは約26万人いるとも言われています。また、2024年の日本におけるダイレクトリクルーティング業務のアウトソーシングは前年対比で25%前後成長するといった予測も存在します。
日本では、まだ採用担当者が一気通貫で採用業務を担うことが多く見られますが、これからは「応募獲得」に特化したスキルを持った個人や企業へのアウトソーシング、もしくはそういったスキルを持った専門人材の採用・育成が人事担当者、採用担当者の働き方における重要なトピックになっていくのではないでしょうか。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。