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「えこひいき」する上司と思われないために。バイアスの認識の重要性

2024/06/06 Thursday
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働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。今回は、公平な人事評価をするためには避けて通れないバイアスの認識について考えます。

管理職は部下を公平に評価できるか?

管理職としての重要な仕事の1つに、部下の「人事評価」があります。管理職に就いている方は、年に1、2回は部下の仕事ぶりや業績を評価し、その結果を部下に対してフィードバックする機会があるでしょう。

もちろん、1人の管理職の評価のみで部下の給与が決まるわけではありませんが、部下の給与や社内での評価に影響を与えることは確かなため、重要な業務の1つであることに間違いはありません。部下の評価がよかったり給与が上がったりすれば何の問題もないわけですが、期待していたよりも評価が低かったり給与が下がったりしてしまう場合、部下にそれを伝えるのはあまり心地よい仕事ではないかもしれません。

大事な仕事だからこそ、部下の評価はできるだけ「公平」につけようと考えている管理職がほとんどだと思います。評価に値する仕事をした人には高い評価をつけるし、そうでない人にはそれなりの評価をつけているはずです。しかし、自分がどれだけ公平に評価をつけていると考えていても、相手や周囲から「あの人はXXXさんをえこひいきしている」「あの人はXXXさんを気に入っているからね」と思われてしまったら、部下からの信頼は一気に落ちてしまいます。

実際どれだけ公平に評価をしているつもりでも、人間であればバイアス(偏り)は存在します。バイアスがあること自体は仕方がないですが、それを認識せずに「自分は全て公平だ」と思い込むのは危険です。無意識のバイアスまみれの評価を下してしまうことで、周囲から反感を買ったり、逆に気に入られるような行動ばかりをされてしまう管理職になってはいけません。

そこで今回は、最新の研究をもとに、評価においてどんなバイアスが働いてしまうのかを紹介します。どのような場面でバイアスが起こるのかを知ることで、評価時に意識できることや注意できることが増えるかもしれません。

気心知れた人、共通点が多い人を評価してしまうバイアス

今回紹介する研究は、3名の経済学者(Cullen、Zoë、Ricardo Perez-Truglia)が有名な経済学のジャーナル「American Economic Review」にて2023年に発表した研究(※)です。彼らの研究は、上司と部下がともにタバコを吸う場合に、タバコを吸わない上司や部下と比べてどれだけ評価に差が出るかというものでした。

まず「タバコを吸う部下」と「タバコを吸わない上司」の組み合わせがあったとします。その部下のもとにタバコを吸う上司が異動してきた場合、この部下は今までタバコを吸わない上司と一緒だった場合に比べてどれだけ昇進、昇給の確率が上がると思いますか。

結論からいうと、大きく昇進、昇給の確率が上がるという結果が出ています。しかも、これは上司が男性でかつ部下も男性の場合のみ発生し、もし部下が女性だった場合や上司が女性だった場合は両方がタバコを吸う場合であっても昇進や昇給の確率は変わりませんでした。その理由として挙げられているのは、上司と部下が共にタバコを吸う男性だった場合、タバコ休憩を一緒にとる確率が26%上昇するということでした。その結果、仕事以外の話をたくさんするなどで気心が知れるようになり、それが昇進や昇給の確率アップにつながっているということです。また、上司と部下の席が近いとさらにその影響は大きくなるそうです。

ここで紹介したのは1つの研究ですが、それ以外にも大学が同じ、出身県が同じだった場合に、上司はその部下を無意識に高く評価してしまうという研究も存在します。

このように、上司は部下の仕事ぶりをみて評価をしていると本人が思っていたとしても、知らず知らずの間に気心知れた人、共通点が多い人などを高く評価してしまいがちです。

※参照:Cullen, Zoë, and Ricardo Perez-Truglia. 2023. “The Old Boys’ Club: Schmoozing and the Gender Gap.” American Economic Review, 113 (7): 1703-40.

バイアスの認識が、信頼される管理職への一歩

もし、これがあなたの会社で起きていたらどうでしょうか。

「上司のAさんは、いつも部下のBさんと一緒にタバコ休憩してるから、Bさんへの評価高いんだよな」「上司のCさんは、同じ大学出身のDさんを好いているからな」など良くない評判がたってしまうことになるでしょう。上司としては「えこひいきして気に入った人を高く評価する人」と見られてしまい、評価された部下も「上司から気に入られているから評価された人」と見なされてしまいます。

そうなると、「まともに仕事をしても評価されないかもしれない」「気に入られていないから自分は評価されない」などと勘違いしてしまい、仕事に対するモチベーションが低下し、さらには離職するリスクも高まってしまうかもしれません。

少なくとも、「あの上司は仕事を頑張っていたらきちんと評価してくれる人だ」とは思われないでしょう。管理職として「この人は頑張っていれば認めてくれる」と思われなくなると、チームや部署をマネジメントしていく上でも困難が生じます。チームの士気を高めるために何か施策を講じても、一体感が醸成できず、言われたことはやるけど自ら考え実行してくれる部下が減ってしまうことにも繋がりかねません。そして、「頑張ってもどうせ無駄」という空気が生まれ、チームは機能しなくなってしまいます。

少し大袈裟かもしれませんが、そのくらい評価というものは重要です。働いている人にとっては、「どう評価されているか」「自分の頑張りが伝わっているか」というのは重大な関心ごとだからです。

だからこそ、「えこひいきする」と思われる上司には誰もついていきませんし、やる気を失ってしまいます。そうならないためにもあらゆるところに存在する「バイアス」の存在を理解し、できるだけバイアスがないように評価を下すための知識を身につけていくことは、信頼される上司になるための大事な要素ではないでしょうか。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。