働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。
今回は、ピープルマネジメントに苦手意識がある管理職がついやってしまいがちな部下との向き合い方について考えます。
管理職が担うマネジメントは2種類
「Alternative Work」を読んでくださる方の中には、管理職としてマネジメント業務に従事している人も少なくないでしょう。私も2023年までは7年間スタートアップから上場企業の取締役、2024年からは公益財団法人の経営を担っていて、マネジメント業務歴が短くない一人です。
本業以外にも、いくつかの会社の経営支援をしていますが、多くの会社でマネジメントに苦戦していたり、管理職の育成や登用について課題を抱えているという話を耳にします。
一口にマネジメントといっても、管理職が行うマネジメントは大きく分けて2種類あります。
1つは、事業の成長や事業計画、目標の達成をするための「業績・業務のマネジメント」。そしてもう1つが、チームやメンバーについての「メンバーマネジメント・ピープルマネジメント」です。
もちろん、前者について課題を抱えている会社も少なくありません。ただ、より深刻かつ管理職にとっても正解が分かりにくく、頭を悩ませているのは、後者の「人のマネジメント」ではないでしょうか。「自分はマネジメントが得意ではない」、「マネジメントが苦手だ」と思っている人に話を聞いてみると、特に後者について苦手意識を持っている人が圧倒的に多い印象です。
さまざまな会社の管理職の悩みや相談を受けるなかで、私はマネジメントが苦手な人ほど犯してしまっている「共通の失敗」があることに気づきました。今回は、「人のマネジメント」が苦手な人がやってしまいがちな失敗について書きたいと思います。
部下を大人として扱っているか?
マネジメントが苦手な管理職、特に「人のマネジメント」に悩んでいる人がやってしまいがちなことの1つとして、「部下を大人として扱っていない」ことがあります。それは一体どういうことか、事例を交えて説明していきます。
例えば、あなたの部下がこう言ってきたとします。
「隣の部署が何をやっているかわからなくなってきた。もっと情報共有を強化すべきだ」
これを言われた時、あなたはどう思うでしょうか。
「たしかに、もっと情報共有をしないといけないな」
「情報共有の少なさが自分の部署の課題かもしれないな」
「情報共有を増やすために何か施策を打とう」
もし、このように考えたとしたらあなたはもしかしたらマネジメントが苦手なのではないでしょうか。
なぜそう思ったかというと、このような考え方こそが「部下を大人として扱っていない」ことを示しているからです。
というのも、あなたは前述のような部下の意見に対して、自分が動いて解決しようと思ってしまっています。でも、大人なら、部下自身が考え、動いて、解決することができるはずです。それを部下に求めないということは、「部下を大人として扱っていない」ことにつながるのです。
では、部下を大人として扱うとしたら、部下の言葉にどう対処すればいいでしょうか。
「隣の部署のことを知りたいなら、自分から聞きにいけばいいのになんでいかないの?」
「なんで誰かが解決してくれるのを待っているの?」
このように、自ら問題を解決することを促せばよいのです。もしくは、「情報共有が足りないと思うのであれば、なぜそう思うのかの理由を根拠と一緒に教えて」と言えばよいと思います。
この部下は、隣の部署が何をやっているか知りたがっています。だとすると、自分で隣の部署に「教えてくれ」と言えばいいだけの話であって、それを管理職になんとかしてもらおうとする行為自体が、“大人”的な行動とはいえないと思います。
もちろん、前提として情報共有は適切に行われていることは重要です。ただ、自分が知りたいという個人的な感情をいかにも組織の課題かのように伝えている可能性もあり、この意見だけでは本当に情報共有が足りないのかはわかりませんし、他のメンバーがどう思っているかもわかりません。
部下に「自分で解決してもらう」コミュニケーションを
同じような事例は他にもあります。
例えば、あなたの部下が「隣のチームのAさんの言い方がキツくて仕事がしにくい。隣のチームのリーダーのBさんに伝えてくれないか?」と言ってきたとします。
これも、管理職が取り合う問題ではありません。
あくまで部下は大人であり自分で意思を持っているので、言い方がキツく感じてやりにくいのであれば本人に伝えればよいだけです。それが気まずいのであれば、自ら隣のチームのリーダーであるBさんに伝えればよいのです。
お子さんがいる方はわかるかもしれませんが、自分の子どもに対して「自分の口で言いなさい」「自分の思っていることは直接言わないと伝わらないよ」と言ったことがある人は多いでしょう。
子どもにはそう言うのに、なぜか仕事になると「直接言いなさい」とは言えずに、部下の人間関係をでしゃばりの親のように解決しようとします。大人同士であるにもかかわらずです。
一見優しいように見えて、これも「大人として扱っていない」ことそのものではないでしょうか。
部下を大人として扱わないことで、部下は管理職に伝えれば何とかしてくれると思うようになるかもしれませんし、実際になんとかなるのかもしれません。しかし、本当は管理職が出ていくような場面でもなんでもなく、部下同士がお互いに話して解決すればいいだけのことなのです。
これが続くと、同じような問題がどんどん管理職のところに集まってきます。管理職として本来行うべき業務に集中できないどころか、人間関係の仲裁のような仕事ばかりしてきて疲れてくるのも無理はありません。
おまけに、もし問題を解決できなければ部下は不満を募らせることになり、管理職としての信頼も失ってしまうことになります。本来は部下自身の問題なのに、です。
このように、部下を大人として扱わないことは管理職として自分を苦しめることにもなります。部下を自分で問題を解決できない人にしてしまい、良いことは1つもありません。
もし、部下から今回のような相談を受けたら、まずは自分で解決してもらう、自分の口で言ってもらうことから始めてみるといいかもしれません。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。