私が取締役をしている株式会社キャスターは2014年の創業時からフルリモートワーク(出勤をせず、対面で会うことがない)で組織運営をしているので、リモートワークにおける相談を受ける機会は少なくありません。
そのなかでも多いのが、リモートワークでのコミュニケーションについてです。
「メンバーに熱量が伝えにくい」
「背景や意図などを察して動いてくれない」
「すぐに返信がない」
など…リモートでのコミュニケーション、特にチャットを中心としたテキストコミュニケーションについて悩んでいるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
ここでは悩みに答える形でリモートワークでのコミュニケーションのコツをお伝えしていこうと思います。
1.メンバーに熱量が伝わらない
コミュニケーションには2つの役割があります。
1つは「情報の伝達・交換」です。
伝えようとしている情報、たとえばですが「来週までにやって欲しいタスクはXXXとYYY」という情報を正確に伝える役割です。
もう1つは「感情の伝達・交換」です。
コミュニケーションを通じて、自分の本気度や怒っている、悲しいなどの感情を伝える役割です。
コミュニケーションはこの2つの役割でできていますが、仕事で前提として絶対に外してはいけないのは間違いなく前者です。感情も大事ですが、指示などが正しく伝わらなければ何の意味もありません。
また後者に関しては言語ではない部分、つまり表情や身振り手振り、雰囲気などによって相手に伝わることが多い要素です。そして、この言語ではない部分の情報はリモートワークにおいては非常に伝わりにくい。だからこそ、熱意を伝える、感情を伝えるのではなくまずリモートワークにおいては「情報」が正確に伝わったかどうかを重視する方が賢明です。
2.背景や意図などを察して動いてくれない
本来、リモートワークに限った話ではないのですが、リモートワークになると1で触れたように言語以外の部分で周囲が「察していた」情報が抜け落ちてしまいます。
つまり、今までも「言語」では伝わっていなかったけど、周囲の「察する力」によって何とか成立していたものが成立しなくなります。
だからこそリモートワーク、特にテキストコミュニケーションにおいてやってはいけないのは「察してもらうことを期待すること」です。オフィスで対面でやっていたときは問題なかったのに、リモートワークになったら急に意図が伝わらなくなったと思っている人がいるとすれば、それは今まで周囲が察してくれていただけです。つまり、周囲の察する力によって支えられていたということです。
リモートワーク、特にテキストコミュニケーションでは、書いていないことは伝わりません。結論だけではなく、意図やその結論に至る背景などを「書いて」伝える責任が、発信者にあります。
3.すぐに返信がない
チャットコミュニケーションと対面コミュニケーションの大きな違いの1つは「同期か非同期か」です。チャットコミュニケーションは非同期に該当します。つまり、その場に全員がいなくてもコミュニケーションが成立することであり、これがリモートワークの最大のメリットでもあります。
逆に非同期になるということは、発信者の都合の良いときに必ずしも返信が来るとは限らないということです。アナタが上司だった場合、オフィスで働いていれば部下に声をかけてその場で返事があった人は多いでしょう。目の前の上司に話しかけられて無視をする部下はほとんどいないはずです。このような場面に慣れてしまった上司からすると、部下に話しかければ「すぐに返事をくれる」のは当たり前と思っているかもしれません。
ただ、リモートワークになると「非同期」になりますし、目の前に上司はいません。だからこそ、上司の都合に合わせたタイミングで返信が返ってくるとは限らなくなります。(もちろん、すぐ返信できれば返信するでしょう)
だからこそ、発信する人は「いつ返ってくるかは受信者次第」という新しい常識を受け入れ、それを前提に前もってコミュニケーションをしていく必要が出てきます。
1〜3で見たように、リモートワークにおいては相手が自分に合わせてくれることを期待してはいけませんし、自分が言わなくても相手はわかってくれるという甘えをやめなくてはいけません。
リモートワークは通勤しなくていいなどラクな面はありますが、コミュニケーションにおいては今まで相手が察してくれていたから自分が発信しなくても成立していたこと、いわゆる「受信者に甘えたコミュニケーション」が成立しなくなります。コミュニケーションに関して、言わなくては伝わらない、伝わるように努力する、伝わるまでが自分の責任、という当たり前のことを役職関係なく実践することが求められる働き方なのだと思います。
リモートワーク環境でのオンボーディングにおいて、会社が準備すべきことやポイントを知りたい方は、「リモートワーク環境下でのオンボーディングのポイント」をご覧ください。
石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。