既存のプロダクトやサービスのライフサイクルがどんどん短命になる現代において、“新規事業の開発”はあらゆる企業のテーマです。
とはいえ、もちろん簡単なことではありません。既存事業にも注力しなければならないなか、新規事業に取り組む決断をするだけでも大変ですし、踏み出せたとしても思うような成果が出せずにプロジェクトが頓挫してしまうケースもあるでしょう。
そんな新規事業の落とし穴ーーその1つが「自前主義」です。かつては自社完結型で良かったものの、現代ではマーケットの変化があまりにも速く、これまでの方法では立ち行かなくなっています。
この記事では、企業が新規事業の開発を進める際に直面しやすい課題と、それを解決するために外部パートナーを活用する有効性やポイントについて、お話しします。
社内で新規事業を始める際に直面しやすい課題
新規事業の創出やイノベーション開発を進める際には無数の課題が生じますが、ここでは特に直面しやすい課題を3つ紹介します。
既存事業とのカニバリゼーション
1つ目は、既存事業とのカニバリゼーションです。
カニバリゼーション(cannibalization)とは、自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう「共食い」状態のことを示すマーケティング用語です。
かつて、「郵送型DVDレンタルサービス」として創業したNetflixが、サブスクリプション型映像ストリームングサービスに舵を切ろうとした際、何百億円も費やした配送センターが無駄になりかねず、新規事業と既存事業との間に強烈な摩擦が発生したというのは有名な話です。
日本企業においてはカニバリゼーションを嫌う傾向が特に強いと言われており、たとえ未来の市場で大きな可能性のある素晴らしいビジネスモデルであっても、足元の利益を優先してしまう企業が多いのも事実です。
優秀な人材が退職してしまう
2つ目は、組織と評価体系です。
新規事業の組織体系は、既存事業の傘下に作られる場合と、飛び地的に既存事業外に作られる場合に分かれます。
前者は、既存事業の評価体系であるPL(売上)を基準に評価されることが多く、新規事業では相当な結果を出さない限り、既存事業に携わっている同僚の方が評価が高くなってしまうのが現状です。
後者は、カニバリゼーションが生じる可能性も高く、社内から事業の協力が得られず、組織が孤立するケースが見られます。
いずれの場合においても、最初はモチベーション高く新規事業の開発に臨んでいた社員が、いつの間にかネガティブな感情を持ってしまうリスクがあることは否定できません。
新規事業に即した組織と評価体系を整えるのが理想ですが、現実的には前述のいずれかのパターンに陥ってしまうことが多く、最悪の場合は優秀な人材が退職してしまうこともありえます。
リリース時にはマーケットが変わっている
3つ目は、新規事業を進めるスピードです。
新規事業においては、早期に顧客に提供し、フィードバックを改善し続けることが重要ですが、失敗を恐れるが故「石橋を叩きまくってなかなか渡らない」というケースもよく見かけます。社内での計画と検証を何度も繰り返し、リスクを極小化できるまでリリースに踏み切れないのです。
一方、変化の激しい現代のマーケットでは商品やサービスのライフサイクルは短命化が進んでいます。2016年の経済産業省の発表によると(※)、10年前と比較してすべての業種の製品ライフサイクルにおいて「長くなっている」より「短くなっている」と回答している企業の方が多く、特に「電気機械」「非鉄金属」「その他」は短縮率が大きいことがわかります。
発表から5年以上が経過した今ではライフサイクルがより短命化していることは明らかで、社内で練りに練った新規事業をようやくリリースする頃には、すっかりマーケットが変わっているということも珍しくありません。
(※)出典:経済産業省 2016年版ものづくり白書
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/honbun_pdf/index.html
外部パートナーに委託する理由やメリット
これら3つの課題は、「自前主義」へのこだわりが大きな要因になっていると言えます。
そこで成功の分かれ目となるのが、外部パートナーの活用の有無です。実際に新規事業の開発で外部パートナーを活用した場合、以下のようなメリットや効果が期待できます。
「社内バイアス」なしに、顧客目線を重視できる
外部パートナーを活用する一番のメリットは、客観的な目線を持てることです。
社内メンバーのみでチームを構成すると、無意識のうちに既存事業の固定観念や価値観に囚われた判断をしてしまいがちです。
マーケティングや顧客アンケートなどでも、自社の評価が悪くならないようにいつの間にか顧客を誘導するような質問を設定してしまうなど、知らず知らずに「社内バイアス」を発動してしまうことがありえます。
そこで有効なのが、外部パートナーにマーケティングや顧客調査を依頼すること。完全にフラットな立場で実施してもらうことで、顧客の真のニーズを発掘できたり、本当に必要なものは何かを純粋に考えたりすることができます。
そこから、既存事業とカニバリゼーションしない全く新しい商品やサービスを開発できる可能性もあります。
プロに任せて開発スピードを最適化できる
また、人材の適材適所を図りやすいのも外部パートナーを活用する大きなメリットです。
新規事業においては、人事戦略的にも社員はコア業務に専念し、外注できる業務はプロに任せるのがポイント。社員は事業判断や資金調達などに徹し、スケジュール管理やプロジェクトマネジメントは思い切って外部に委託するのも得策です。
もちろん、すべて自前主義で大成功すれば達成感は計り知れないでしょうが、新規事業は失敗も大いにありえます。特に、新規事業に携わることを希望する社員が少ない場合は、無理に異動させるよりも、外部パートナーを活用する方が結果的にモチベーションの低下や退職のリスクは低くなります。
さらに、リスクを回避できるだけでなく、各分野のプロにスポット依頼することで開発スピードの最適化を図れます。
PDCAを高速に回せる
新規事業はとにかくスピードが大事です。前述の「商品・サービスの短命化」もありますが、競合他社よりも先にリリースしてマーケットを早く抑え、先行者優位を勝ち取ることも重要です。
スピーディーに開発を進めるには、多くの人材を投じて生み出すサイクルを速める方法と、意思決定のスピードを速める方法の2パターンがあります。
しかし、自社の社員を多く投入するとマネジメントや人事評価にも多くの時間を割かれてしまい、付加価値のある仕事が疎かになりかねません。また、人数が増えれば増えるほど組織にレイヤーが生じ、意思決定のスピードも遅くなります。
新規事業に携わる社員はコアメンバーのみとし、その他に必要なリソースは外部のプロ人材に頼ることでPDCAを高速に回し、意思決定も迅速に行うことができます。
外部パートナーに委託する時のポイント
ここまで新規事業において外部パートナーを活用するメリットをお伝えしてきましたが、ここからは実際に外部委託する際のポイントを3つに絞って解説します。
タスクの見える化で、内製/外注する仕事を分類
新規事業に限ったことではありませんが、外部委託を行う場合は「タスクの見える化」が非常に重要です。
まず、タスクを見える化して内勢化する仕事と外注する仕事をきっちりと分類します。それぞれを分けることで人事評価や事業判断をしやすくなるのに加え、外部パートナーに開示すべきでない情報などを管理することにも繋がります。
また、タスクを見える化することで、事業判断を担う社員(コアメンバー)がプロジェクトの全体像を把握しやすくなります。それによって、外部パートナーに依頼する仕事量を予測して予算取りをスムーズに計画することができますし、適切な業務依頼を行い効率的に開発を進めることができます。
マルチタスクの外部パートナーを選定
新規事業で外部パートナーと上手く連携するには、マルチタスクに対応できる委託先を選定することもポイントです。
たとえば、LP(ランディングページ)にて商品セールスを図る際は、LPを作って終わりではありません。商品をお客さまに届ける仕組みが必要となり、SEOやSNS活用、広告運用などを組み合わせて顧客導線を最適化しなければなりません。そのため、LPを作るという特定のスキルだけではなく、商品セールスというゴールに向かってあらゆる手法を有機的に組み合わせるマルチタスクが可能な外部パートナーを選定する必要があります。
いくらプロに頼むと言っても、あまりにスキルが細分化されていると業務依頼のプロセスややりとりが増えて、結果的にコアメンバーに負荷がかかってしまいます。マルチタスクが可能な外部パートナーを選ぶことで、より効率的に新規事業の開発を進めることができます。
外部パートナーのバックアップ体制を確認
外部パートナーには、法人と個人(フリーランスなど)の2パターンが考えられます。依頼したい業務にもよりますが、継続して仕事をお願いしたい場合は法人パートナーがおすすめです。
というのも、法人パートナーはある意味「チームへの業務依頼」なので、仮に担当者の急な体調不良や退職が生じても、他の担当者に引き継いでくれるため、業務がストップしてしまう心配がありません。また、パートナー企業が教育・研修を行っているため、コンプライアンスや情報管理の面でも安心です。
新規事業は取り組むべきタスクや課題も多く、外部パートナーのマネジメントにまで手を回す余裕はないので、あらかじめバックアップ体制がしっかりと構築されている企業へ依頼するのが有効です。
まとめ
最初は「新規事業をアウトソーシングするの!?」と驚かれた方もいるかもしれませんが、メリットやポイントを整理することで、「新規事業こそ外部パートナーを活用すべき」理由を理解いただけたのではないでしょうか。
0→1(ゼロイチ)をすべて自社でやりたくなる気持ちもわかりますが、今や働く一人ひとりが自分のやるべき仕事にフォーカスし、それぞれの能力や創造性を発揮する時代ーー「自前主義からの脱却」が新規事業を成功させるための近道かもしれません。
山咲 かもめKAMOME YAMASAKI
企業内起業家、兼ライター。建築・金融・不動産業界にて15年働いた経験を活かし、企業の新規事業開発やマーケティングをサポート。休日はフォトグラファーとしても活動中。2020年に個人で不動産投資を開始、将来の夢はメガ大家さんになること。