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これからの上司に必須!「聴くスキル」の本質と課題とは

2023/06/22 Thursday
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多くの職場において女性幹部を増やすことが課題になっているなか、政府が推奨している“会社を超えてのメンタリング”。
この政策の裏にある管理職を取り巻く課題と、これからの管理職に求められるスキルについて考えます。

メンタリング推奨の裏にある組織の課題とは

岸田政権になり、毎日働き方に関してのニュースが後を絶ちません。また、人的資本経営が非常に重要になり、上場企業に関しては人的資本に関しての開示義務が課されていますし、リスキリングの推進、職場のエンゲージメント向上など、私たち自体が今までの働き方をアップデートしなければいけない局面に来ています。

そのなかでも、あまり目立ちませんでしたが、政府が以下のような施策を推進しています。

「女性幹部育成へ社外メンター制度推進へ 経産省がマニュアル」(産経新聞)

女性幹部を増やしていくことは多くの職場において課題となっていますが、その政策として“会社を超えてのメンタリング”を推進しています。ほとんどの読者にとっては「私には関係ない」と思うかもしれませんが、実はこの政策の裏には、管理職を取り巻く課題が隠れていると思っています。

まずは、この施策についていくつか重要な点をまとめてみます。

1つ目は、メンター・メンティーがお互い別の会社だということです。それにより、社内の直属の上司や同僚、人事に対してはどうしても言えないことや言いにくいことも相談できる可能性はぐんと高まります。

2つ目は、ロールモデルの発見です。特に、自社に自分よりも上の職位で活躍してる女性が少ない場合、自分が将来どういった働き方をすることになるのか、自分が昇進した先にどういった悩みや喜びがあるのかなどはイメージしにくいです。そうなると、イメージがつかないことが遠因となり、昇進を躊躇してしまう人も少なくないかもしれませんし、社内でなくてもロールモデル的な存在ができることの影響は大きいでしょう。

また、逆に自分が部長だったら、他社の課長の話を聞ける機会も貴重です。上司になると部下がどんなことを考えているかを聞くことが難しくなりますが、今回のような機会を通じて、上司も自分の部下が考えていることや悩んでいることを想像しやすくなるメリットもあると思います。

それらの観点でも、こういった会社の垣根を超えた取組みや交流がもっと頻繁に行われていくのはいいことですが、ある意味でこれは課題の裏返しでもあります。

管理職に求められるのは「聴くスキル」

どういうことかというと、社内の人には相談しにくいこと、社内の人では聞けない話が存在しているという事実があることです。

社外メンタリングは1つの手ではありますが、本質的には「自分の上司や自社の人事にはできない話」が存在することが課題であり、多くの管理職にとって今後「聴くスキル」が最重要スキルの1つになるということでもあります。

実際、働く人の「聴いてほしいニーズ」は増えています。管理職でもなく経営者でもない、いわゆる普通の会社員が自分でお金を払い、プロのキャリアコンサルタントに個人のキャリア相談をする人が増えているのです。

たとえば、ミートキャリアやポジウィルといったスタートアップ企業によって提供されているサービスが代表的ですが、転職のためではなく中長期的なキャリアについて相談するという人が急増しているそうです。それだけ話を聞いてもらい、悩みを相談したいというニーズが社内で満たせないということでもあります。

管理職をしている人のなかにも、課題を感じている人が増えています。

たとえば、ここ数年、管理職として働いている人が有料でコーチングのセッションを受けたり、さらに自らコーチングのスキルを身につけるために資格にチャレンジしたりしている人は少なくありません。管理職として仕事をしているなかで「部下が本音を言ってくれない」「1on1で何を話していいかわからない」といったコミュニケーションの課題を感じている人も多いでしょう。

だからこそ、自分でお金と時間を使ってコーチをつけ、自らの傾聴力やコミュニケーション力を磨いて、マネジメントする上でのバイアスを自覚するなどしています。

「聴いているつもり」の落とし穴

これらの現象から、管理職にとって「聴くこと」が必須スキルになっているのは明白でしょう。

「話を聞く」というのは当たり前のことのように感じるので、自分はできると感じる読者も多いかもしれません。

私もそう思っていたのですが、コーチングセッションを受けた際に、いかに自分が人の話を聴いていなかったのかを実感させられました。聴いているつもりでも自分なりに解釈してしまっていたり、自分で話の先を予測して良かれと思って回答してしまったりしていたことに気づきました。本当に人の話を「聴く」というのは難しいのですが、コーチ曰く、それは自分の話を本当に聴いてもらった経験がないからだということです。

これから働き方は多様化し、さまざまな選択肢を用意する会社も増えてくるでしょう。選択肢が増えるのはいいことですが、それによってどんな選択をするべきか迷う人が増えることにもつながるかもしれません。

そんななか、管理職は部下の相談や悩みを聴き、そして自分たちで解決できるようサポートしていく役割になるべきだということは想像に難くありません。

つまり、意識的に「話を聴く」スキルを身につけたり、職場で話しやすい雰囲気をどう作るかを考えないといけません。

こういった背景を考えても、これからは「いかに部下の話を聞けるか?」「部下が相談したい上司か?」が、管理職になるかそうでないかの分かれ目になっているとも言えると思います。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。