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「健康経営」、何をすればいい?基本まとめと成功事例を紹介

2024/09/05 Thursday
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いま注目されている「健康経営」。企業が経営的な視点から、戦略的に従業員の健康管理を行うという考え方です。健康経営にはどんなメリットがあるのか、どんな施策が有効なのか、知っておきたいポイントと合わせてまとめました。

健康づくりはコストではなく「投資」

以前公開した、人的資本経営に関する記事でもご紹介しましたが、上場企業を対象に人的資本開示が義務化され、非財務情報の価値が見直されています。その中でも注目されているのが、従業員の健康づくりを「コストではなく投資として捉える」という健康経営の発想。国も力を入れて推進しています。

背景には、2020年からの30年間で、生産年齢人口が30%以上減少する一方、平均寿命は延びる(※1)とされていることがあります。国民の健康寿命を延ばすことで「生涯現役社会」をつくり、国民の健康はもちろん、日本の経済成長も目指すという狙いがあります。

従業員の健康は、ビジネスの成果や生産性はもちろん、企業のブランディング、人材の定着、採用活動などにもつながる重要な要素です。従業員の身体的な健康は、仕事へのコミットや生産性、成果に直結します。またメンタルヘルスも同様に、仕事と深く関係しています。

たとえば、経済産業省によると、健康経営度の高い企業は「離職率が低い」傾向にあります(※1)。離職率の全国平均が11.1%のところ、健康経営銘柄2023に選ばれている企業は2.2%でした。

また、アドバンテッジリスクマネジメントの調査によると、ウェルビーイング偏差値と仕事のパフォーマンスには、中~大程度の相関関係があります(※2)。企業規模別にみると、従業員数100名未満または2,000名以上の企業で強い相関関係がみられ、特に50〜99名の企業で最も強いとわかりました。

健康経営は、大企業やグローバル企業だけが取り組むものではなく、中小企業をはじめとするあらゆる企業で推進すべきといえるでしょう。他社との差別化要素として、人手不足の中で優秀な人材を集める好材料にもなりえます。

健康経営を管轄する経済産業省は、健康経営に取り組んでいる企業が正当に社会的な評価を受けられるよう、毎年表彰しています。

たとえば2014年度から、東京証券取引所と共同で、上場企業を対象に「健康経営銘柄」を選出。「健康経営銘柄2024」には、27業種53社が選定されました(※1)。評価項目は「経営理念」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5つ。それぞれに紐づく具体的な項目があり、それを満たすことで選定されます。

また、2016年度からは「健康経営優良法人認定制度」がスタート。大企業の上位500法人は「ホワイト500」、中小企業の上位500法人は「ブライト500」として表彰されます。

「健康経営優良法人」の認定数は年々増えており、2023年は大企業が2,988件、中小企業が16,733件と、どちらも過去最多(※1)でした。初年度の2016年度は大企業が235件、中小企業が318件だったので、10倍以上に増えており、注目度の高さがうかがえます。

※1出典:経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」令和6年3月

※2出典:アドバンテッジリスクマネジメント「ウェルビーイングと仕事のパフォーマンスにおける相関分析」2022年10月実施

何をすればいい?健康経営の中身と成功例

健康経営の考え方に基づいた、企業の具体的な取り組みのことを「健康投資」と呼びます。では、健康投資にはどんな施策が挙げられるのでしょうか。具体例を挙げてみました。

  • 有給休暇の取得日数を増やす
  • 従業員の健康状態に関するデータをもとに、食生活の改善アドバイスを行う
  • ストレスチェックをこまめに行う(2015年12月から、50人以上の従業員を雇っている事業場では年に1回以上の実施が義務に)
  • 散歩やマラソン、ストレッチなどの会を開き、運動の機会を増やす
  • 歯科検診の費用補助を行い、定期的な受診をアシストする
  • 受動喫煙対策を行う
  • 経営者やマネージャー層に向けて、健康やメンタルケアに関するセミナーを開く

健康経営を実践している例はたくさん出ています。今回は、大企業と中小企業の例を3つずつご紹介します。

SCSK株式会社

「健康経営銘柄」に10回選定。2015年と早期に健康経営の理念を制定した。「健康リテラシー、健康増進、健康管理、安心感・リスク対応」の4つを軸に設定。全社員にアンケートを取って効果検証を実施、「よい行動習慣を身に付けている方が生産性が高い」などの結果を公表している。

花王株式会社

「健康経営銘柄」に9回選定。5年ごとに「健康中期計画」を立て、組織的に取り組んでいる。例えば、全国21ヶ所の健康相談室に従業員の健康データを提供し、エリアごとの特性や課題に応じた健康づくり計画を実施している。

テルモ株式会社

「健康経営銘柄」に8回選定。喫煙率とメタボ率の低減や、がんの早期発見、職場復帰に向けたサポートなど、病気の予防・早期発見・治療支援の各フェーズで支援している。社員はもちろん、家族も利用できる費用補助やイベントなども用意している。

株式会社ケィテック(愛知県)(※3)

健康経営を「みんな元気2022活動」と名づけ、10の活動項目を設定。各項目の達成度に応じてポイントを配分し、インセンティブとしてQUOカードを進呈している。またコミュニケーション活性化を図り、従業員向けの料理教室イベントを開催するなどしている。

南双サービス株式会社(福島県)(※3)

姿勢を正しくして腹囲を減らす目的で、全社に姿勢矯正クッションを導入。7割の従業員が利用している。また、会社が費用を一部補助し、仕出し弁当に生野菜を付けて提供。会社として持続可能な取り組みを行っている。

ダイヤ工業株式会社(岡山県)(※3)

月に1回、従業員が自分自身の運動器年齢を計測する時間を設けている。成果として健康意識が高まり、全社平均の運動器年齢が2020年度の平均30歳から、2022年度に平均29.1歳にまで減少した。

※3出典:経済産業省「健康経営優良法人2023中小規模法人部門

「何をしたらいいかわからない」などの課題も。経営者が押さえたいポイント

健康経営の成功事例が増える一方、実践できていない例もまだ多いようです。東京商工会議所の調査(※4)によると、「健康経営を実践するにあたり、課題になる(なっている)と思う」ものについて、「どのようなことをしたらよいか分からない」が 45.5%、「ノウハウがない」が36.6%と2トップになりました。

また同調査では、「必要だと思う支援」について「ノウハウの提供(ハンドブック等)」が 52.4%、「補助金・助成金」が 42.1%と上位になりました。健康経営に向けた情報のなさが課題になっていること、経済的なインセンティブが強く求められていることがわかります。

※4出典:東京商工会議所 会員交流センター「健康経営に関する実態調査」調査結果 2019年1月28日

では、経営者が健康経営を推進する際、どんなステップを踏めばいいのでしょうか。ポイントを整理しました。

  • 健康経営の趣旨を踏まえて、最終的に達成したい目標や指標を設定する
  • 目標達成に向けて、何が課題になっているのか明らかにする
  • 経営陣やマネージャー層で認識を合わせ、方向性を決める
  • 自社の取り組み現状を把握し、解決策を検討する
  • 現場のメンバーも含めて意識を浸透させていく

企業規模や業種、働き方などによって、取り組むべき課題は異なります。自社にとっていちばんいい施策は何なのか、現場の意見も取り入れながら探っていくことが大切です。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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