働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。
「Z世代は飲み会に参加したがらない」。世間ではこのようなニュースを見かけることが少なくありません。では、実際に部下から「飲み会、行かなきゃダメですか?」と聞かれた場合、上司としてなんと答えるのがベストでしょうか?今回は、“デキる上司”の回答と共通点を考えます。
Z世代の部下をマネジメントする中間管理職の悩み
ここ数年、中間管理職として働く人が頭を悩ませている問題といえば、「Z世代」と呼ばれる若い世代の部下や同僚の扱いではないでしょうか。
先日も、SNS上で中間管理職として働く2人の男性のインタビュー動画に注目が集まっていました。「自分の若い頃は理不尽に耐えてきて、いざ自分が中間管理職になったら何を考えているか分わからない部下からハラスメントと言われることに怯えていて…」といったインタビュー動画が流れ、大きな反響を呼んでいました。
若者の新しい価値観とどう向き合うかといったテーマでの議論はさまざまなメディアで行われています。「挨拶をしない権利もあるのではないか」と主張した若者の意見がSNS上で大炎上するなど、現在の40〜50代では考えられなかった意見を持つ若者が増えているのは間違いありません。
そんな現代でも、仕事をしていると同僚や上司、部下と飲み会に行くことは少なくないでしょう。残業帰りにサクッと1杯飲みしながら仕事や会社について話したり、普段のオフィスではなかなか話さないような話題で盛り上がったりすることもあると思います。私も2015年以降リモートワーク中心で働いていますが、飲み会は好きなので誘われればほぼ出席しています。
しかし、現在の若者、特にZ世代と呼ばれる人たちの中には「飲み会なんて意味がない」と思い、忌み嫌っている人も少なくない印象です。
確かに、長時間上司の自慢話を聞き、周囲に気を遣い、しかも自費参加なんてことになれば参加したくなくなる気持ちは分かります。
そんななか、Z世代の部下から「飲み会は行かないとダメですか?」と聞かれたら、上司としてどう答えるのがベストなのだろうかと迷う人は多いと思います。
「輪を乱さないために来なさい」といったらハラスメントになるってしまうかもしれないし、かといって部署で行う行事であれば「別に来なくていいよ」と上司として言うわけにもいきません。私も中間管理職をしていた時代にそのように聞かれたことがあるのですが、答えに困窮した覚えがあります。
では、このような部下からの困った質問にはどう答えるべきでしょうか。
会社の中でトントン拍子で出世していく人は、このような困った質問に対しても、優れたバランス感覚を持ちながらうまく回答している人が多かった印象です。今回は、このような困った質問に対して出世していく人はどう答えているのか、その共通点を考えます。
“デキる上司”の回答例とポイント
とんとん拍子で出世していく優秀な人ほど、こういった困った場面への対処が上手なのですが、そのような人は「飲み会は行かないとダメですか?」と聞かれた時、次のように答えているケースが多く見られます。
部下「今日の飲み会行かないとダメですか?」
上司「もちろん、強制じゃないから行きたくないなら行かなくてもいいよ。でも、俺なら気が進まなくても行くかな」
部下「どうしてですか?」
上司「別にさ、飲み会に行ったからといって仕事の評価が上がるわけじゃないし、飲み会で上司の昔話を聞くのはつまらないよ。でも、お酒が入ると気が大きくなったりする人も多いし、その時に一緒にその空間にいたというだけで後になって仕事がやりやすくなったり、なんとなく名前を覚えてもらったりしやすいのも事実なんだよね。それは全く本質的ではないけど、でも実際にそういうことはよくあるし。2~3時間そこにいて話聞いてるだけで、仕事しやすくなったりするならそっちの方が得だなと思うから」
ここでポイントとなるのは以下の4つです。
- 強制じゃないことは伝える
- その上で、「自分なら行く」といういち意見を伝える
- 「自分なら行く」理由を合理的に説明する
- 真実を過大でも過小でもなく伝える
本人の意思は尊重しつつも、ビジネスパーソンとしてその会社で成果を上げる、仕事をしやすくするための手段として飲み会は非常に簡単で、しかも効果的な手段であることを伝えているのです。
「本質的ではない」としつつも、飲み会で話したことがあるだけで名前を覚えてもらったり、仕事がしやすくなるという事実があることを伝えており、飲み会自体をフラットに捉えた上で、「メリットがあるから行く」という「考え方」を伝えています。
これは、仕事で高い成果を残せる人、出世する人に共通するコミュニケーションの取り方でもあるのですが、彼らは本人の意思を尊重しつつも、「事実」や「解釈」の仕方、「考え方」などを提示します。その上で、最後は本人に自分で決めてもらう、というスタンスを必ずと言っていいほど取ります。
解釈と考え方を示し、最後は尊重する
これは飲み会に限らず、日々の仕事の場面にも当てはまります。
情報を与えるだけではなく、解釈の仕方や考え方をセットで伝えることで、質問者が自ら考え、判断できるように促します。そして、最後は本人が行った意思決定を尊重するというマネジメントをしていることが多いのです。
上司や中間管理職の立場になると、「正解」を出し、それを部下に納得させ、同じような行動をさせなければならないと考えてしまいがちです。もちろん、それが重要な場面もあるのですが、そのようなマネジメント手法ばかりを繰り返していては、部下は自分で考えなくなりますし、常に管理職に対して正解を求めるようになります。あるいは、管理職の考えとは関係なく、自分の都合で物事を考えるようになってしまいます。
“デキる”管理職は正解を出すのではなく、正しい情報とその解釈の仕方、考え方を提供します。結果、部下は自分で考え判断できるようになり、自ずと間違った判断をしないようにもなります。
たかが飲み会1つだとしても、部下が自分で考え、選択し、自らが成果を出すために最適だと思われる行動を自分で取れるように促すきっかけを作ることができます。
些細な問題であっても、部下が自ら情報を正しく解釈し、正しく考えられるように導くマネジメントができる管理職は、会社にとって貴重な存在と言えるでしょう。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。