採用面接をする場合、事前に履歴書や職務経歴書をもらい、それをもとに書類選考をし、その後面接を行うという流れが一般的です。このプロセスを何の疑問も持たずにやっている人がほとんどだと思いますが、この形式が本当にベストなのでしょうか。今回は、未来の採用形式について考えてみます。
面接での「NG質問」と「人間のバイアス」
採用に携わる人であれば知っている人も多いでしょうが、採用時には候補者のパーソナリティに基づく部分で合否を決めてはいけないことになっています。
面接時に「結婚の予定はありますか?」などと聞くことは言語道断ですが、それ以外にも聞いてはいけない質問は少なくありません。具体的に言えば、年齢・性別・見た目・住所・婚姻歴・子どもの有無・宗教観・思想などが採用の合否に影響することはNGです。純粋に職務経験やスキル・能力などで判断することが求められています。
とはいえ、そういった基本的な考え方は知っていても、人間には先入観や思い込みなどのバイアスが存在します。
いくら「自分はバイアスなくフラットに判断している」と思っている人にでも、無意識なバイアスは必ず存在すると言われています。
有名な実験研究(※1)では、学歴や職歴が全く同じ履歴書を使い、写真と名前だけ「黒人」と「白人」それぞれに変えて応募したところ、前者の方が書類通過率が低かったということが知られています。どんなに「差別は良くない」「バイアスをかけてはいけない」と思っていても、何かしらで判断材料になっている可能性は高いと言えます。
※1独立行政法人労働政策研究・研修機構Webサイト
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2008_3/france_01.html
履歴書から「顔写真」「性別」を排除する流れも
そう考えると、履歴書や職務経歴書を提出してもらい、書類選考を通過した人の面接を実施するという今の流れは本当にこのままでいいのでしょうか。
履歴書には、顔写真・名前・性別・年齢(生年月日)・住所・学歴・配偶者の有無など、選考時に判断してはいけない項目やバイアスを助長しそうな項目が溢れています。そんな履歴書を見た面接官が、バイアスを働かせずに判断することができるかどうかには疑問が残ります。
ユニリーバ・ジャパンでは、2020年より履歴書から顔写真や性別を排除する取り組み(※2)を始めていますが、まだまだこのような取り組みをしている会社は少数派です。
※2「LUX Social Damage Care Project(ラックス ソーシャルダメージケア プロジェクト)」
https://www.unilever.co.jp/news/press-releases/2020/lux-social-damage-care-project/
履歴書をなくし、アバターで面接する未来
面接官をやったことがある人であれば、心の中でこんな考えがよぎったことが少なからずあるかと思います。
「この候補者、経験はバッチリだけど年齢が少し高いな…」
「お子さんがいるから、もしかしたら長い時間働けないのでは…?」
そういったバイアスを取り除こうと努力することはもちろん大切ですが、そもそもバイアスが生まれてしまう今のような採用の仕組み自体を変えた方がいいのではないでしょうか。
たとえば、履歴書はなくても職務経歴書があれば、どんな仕事をしてきたのかはわかります。顔を見なくても話ができれば、その人の経験やスキルが自社のポジションにマッチしているかは判断できるでしょう。(もちろん、接客業や営業など、雰囲気も含めて第一印象が大事なポジションもあるとは思いますが)
むしろ、顔を見ない方が視覚的要素に誤魔化されずに話している内容だけで判断でき、精度が上がる可能性すらあります。いっそのこと、候補者にはアバターでオンライン面接を受けてもらう方が実はいいのかもしれません。
無意識のバイアスがあることによって、どうしても不利になってしまう人と有利になってしまう人はおそらく存在しています。本当に経験やスキル・能力だけで判断するには、「個人情報はなし」「顔も見ない」くらいのことをしないと、判断に影響するバイアスを完全に取り払うのは難しいでしょう。
将来的に履歴書がなくなり、候補者がアバターで面接することができれば、今とは全く違った選考結果になる人がたくさん生まれる未来もあり得るかもしれません。
採用面接の質問や行動のNG項目を知りたい方は、「法律違反しているかも!? 採用面接でのNG質問クイズ」をご覧ください。
石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。