2023年4月に成立し、いよいよ今年11月1日から施行されることとなった「フリーランス新法 / フリーランス保護新法」(正式名称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)。
その具体的な内容と、経営者やマネジメント層が確認すべき事項についてまとめました。
フリーランス新法ができた背景と適用対象
フリーランス新法ができた背景には、働き方が多様化し、フリーランスという業務形態が一般的になったという状況があります。副業をする人が増えたことや、深刻な人手不足によりフリーランスを活用する企業が増えていることも、理由の1つと考えられます。
一方で、厚生労働省などの調査(※)によると、多くのフリーランスが取引の中でトラブルに遭遇しています。具体的には「報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった」が11.8%、「あらかじめ定めた報酬を減額された」が8.5%(複数回答可)と、報酬関係でのトラブルが多いようです。
さらにこうしたトラブルへの対応は、「そのまま受け入れた」が32.6%と最多です。フリーランスは個人単位で働き、発注側は企業など組織単位のため、相対的にフリーランスが弱い立場に置かれ、厳しい環境にさらされていることがわかります。
こうした状況を受けて、フリーランスと事業者間の取引を適正化し、フリーランスの労働環境を改善してビジネスシーンの安定化を図るため、制定されたのがフリーランス新法です。
前提として、フリーランス新法の対象となるのは「発注事業者からフリーランスへの業務委託(事業者間取引)」です。発注事業者とは、フリーランスに対して業務を委託しており、かつ従業員を雇っている事業者のこと。なお「従業員」は「週労働20時間以上かつ31⽇以上の雇⽤が⾒込まれる者」という条件があり、⼀時的な雇⽤は含みません。
そしてフリーランスは、業務委託を受ける側であり、かつ従業員を雇っていない人を指します。従業員を雇っている人や、BtoCのビジネスだけをしているフリーランスは対象外です。いずれも、資本金や売上額は関係ない定義であることが特徴です。
※出典:内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁「令和4年度フリーランス実態調査結果」
すべての取引に適用される、法改正の内容4つ
フリーランス新法により変わる内容は7つありますが、契約期間の長さによって、適用される項目が変化するので、発注事業者は注意が必要です。まずは、対象内のすべての取引に適用される4つの内容を解説します。
1.取引条件の明⽰
発注事業者はフリーランスに業務委託をする際、すぐに紙やメール、SNSのメッセージなど書面で取引条件を明らかにしなければなりません。これは例外的に、従業員のいない事業者(フリーランスを含む)からの発注も対象となります。
取引条件とは、具体的に「業務の内容」「報酬の額」「⽀払期⽇」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした⽇」「給付を受領/役務提供を受ける⽇」「給付を受領/役務提供を受ける場所」「(検査を ⾏う場合)検査完了⽇」「報酬の⽀払⽅法に関する必要事項」を指します。これらを必ず明示しましょう。
2.報酬の⽀払期⽇を設定し、期⽇内に⽀払う
発注事業者は、納品物を受け取った⽇から数えて60⽇以内の、できる限り早い⽇に⽀払期⽇を設定しなければなりません。なお再委託の場合、発注元が支払う日から30日以内のできる限り早い⽇が、支払期日となります。自社の経理の規定や支払いサイクルによっては、漏れてしまう可能性があるため注意が必要です。
3.人材募集の情報を正しく、最新の状態に保つ
HPやwebメディア、新聞、雑誌などにフリーランスの募集情報を載せるとき、内容を正確かつ最新のものに保たないといけません。例えば、報酬額を実態よりも高く見せかけたり、古い募集情報を掲載し続けたりするのはNGです。
4.ハラスメント対策の体制を整える
フリーランスは相対的に立場が弱いので、ハラスメントを受けても相談できず我慢するケースが多いといわれます。発注事業者は、フリーランスに対するハラスメント対策を積極的にしなければなりません。
具体的には、ハラスメント対策の⽅針を明確にし、広く周知したり、万が一ハラスメントが起きてしまった場合に、迅速かつ適切に対応する体制の整備も必要です。
一定の期間以上続けて業務委託する場合に適用される、法改正の内容3つ
次に、フリーランスに対して一定の期間以上にわたって業務委託を続ける場合に、発注事業者に適用される3つの内容を解説します。
5.報酬の減額や買いたたきなどの禁止
1カ⽉以上の業務委託をする場合、「受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購⼊・利⽤強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し」の7つが禁止されます。例えば、発注者都合で納品物を受け取らなかったり、フリーランス側に非がないのに報酬を減額したり、やり直しを命じたりするのは禁止されています。
6.育児や介護との両⽴をサポートする
6カ⽉以上続けて業務委託をする場合、フリーランスが育児や介護と業務を両⽴できるよう、本人の申し出に応じて必要な配慮をしなければなりません。なお、短期的な業務委託や単発の取引であっても、努力義務とされています。
必要な配慮として、例えば、育児のためにリモート勤務を増やしたり、介護のために納期を繰り下げるなどが考えられます。こうした選択肢を検討した結果、やむを得ず実施できない場合は、その理由を説明することとされています。
7.契約を解除したり更新しない場合、事前に予告する
6カ⽉以上続いた業務委託を中途解除したり、更新しない場合は、原則として30⽇前までに予告する必要があります。また、解除日までにフリーランスから解除理由の開⽰請求があったら、それに応じる必要があります。
ただし例外もあります。例えば、基本契約とは別で30日未満の日数で解除しても良い個別契約を結んでいる場合や、災害などやむを得ない事由がある場合は、事前予告がなくても良いとされています。
経営者がやっておくべき3つの対策
もし発注事業者がこれらの規定に従わない場合、被害を受けたフリーランスは国に相談でき、国は指導や勧告などを行えます。発注事業者が命令に従わなければ、50万円以下の罰金が科されることも……。
では、フリーランスと取引をする企業はどんなことに注意すれば良いのでしょうか。経営者やマネジメント層がやっておくべき対策を、3つまとめました。
法改正の内容を正しく理解する
フリーランス新法は、上記のとおり規定に条件分岐があり、内容も細かいものが多いです。まずは法律の趣旨や内容を理解して、自社にどれくらい影響があるのか把握しましょう。例えばメディアの情報発信を随時チェックして、業界全体の動向を知るのも役立つでしょう。他社の対応を参考にすることで、自社の状況に合った適切な対策を検討しやすくなります。
契約書の内容を見直す
フリーランスとの間で交わしている契約書やメールなどについて、今一度見直しましょう。記載している項目や内容が、フリーランス新法の規定に合っているか確認する必要があります。例えば、取引条件をメールなどに正しく記載しているか、納品から60日以内に報酬を支払っているかなどがチェックポイントとなります。
こうした見直しを進めることで、労働契約の透明性が上がり、会社全体のコンプライアンスの強化にもつながります。また、合わせて社員や取引先のフリーランスに対しフリーランス新法による影響などを説明すると、関係悪化や紛争の防止にもなります。
必要に応じてBPOなどを検討する
法的リスクは、何よりも回避したいもの。定期的に弁護士や顧問など専門家からのアドバイスを受けて、最新の法規定をキャッチアップしたり、自社の状況を把握しましょう。
法務や労務の世界は専門的な知識が多く、とくに中小企業やベンチャーでは、必要な範囲をカバーしきれないケースも多いようです。その場合は、例えばBPOを使って外部にアウトソーシングするなど、効率的かつ効果的なやり方を探すのがいいでしょう。
このように、フリーランス新法の内容は確認事項が多いうえ、さまざまな部署にまたがる対応が求められます。11月1日の施行日まであと4カ月を切った今、早めの準備を進めていきたいところです。
また、フリーランス新法への対応に限らず、人事労務の業務は煩雑で法規制の変化も目まぐるしい領域です。人事労務の業務をアウトソーシングするなら、キャスターが展開している人事労務に特化したリモートアシスタントサービス「 CASTER BIZ HR 」が便利です。単に業務を代行するだけではなく、 人事労務の業務をプロの目で見直し、最適なフローを構築します。さらに、業務の見える化を実現して属人化を解消できるほか、クラウドを活用して担当者がリモートワークで業務を行えるようになります。ぜひお気軽にご相談ください。
さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。