management 経営/マネジメント

柔軟な働き方が増える時代に直面する、2つの「バイアス」

2024/12/19 Thursday
この記事をシェア: xシェア

働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。

今回は、柔軟な働き方が求められる現代にこそ起こりやすい2つのバイアスについて解説します。

柔軟な働き方で浮き彫りになるバイアスとは

先日の日経新聞(※)で発表されましたが、在宅勤務をする人の割合が再び増加傾向になったようです。

GAFAMをはじめとするアメリカのビッグテックと呼ばれる大手企業が出社に戻すなどのニュースが流れることがありますが、マクロで見ると世界のリモートワークの割合は2022年からほとんど変化はなく、アメリカで約30%、日本でも約20%前後。リモートワークは働き方の1つとして定着したといっていいでしょう。

これから立ち上がる会社でも、フル出社で経営するよりもリモートワークを取り入れて働くという会社は少なくないでしょう。そう考えると、今後さらにリモートワークは当たり前になっていくと予想できます。一切出社しないフルリモートワークがどこまで増えるかはわかりませんが、出社とリモートワークの両方を組み合わせたハイブリッドワークを取り入れる会社は増えていくと思います。そういった柔軟な働き方が定着してくる時代において、経営学や経済学で注目されている2つのバイアスがあります。

1つは「Flexibility Bias(フレキシビリティ・バイアス)」、もう1つは「Proximity Bias(プロキシミティ・バイアス)」です。

※日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC047290U4A201C2000000/

「柔軟に働く=コミットしていない」というバイアス

フレキシビリティ・バイアスは「柔軟な働き方を選ぶ人というのは仕事にコミットしていない」と考えてしまい、役職登用の際に不利に扱ったり、低く評価するというバイアスです。

たとえば、職場の規範として残業するのが当たり前になっているとします。そういった職場において、時短勤務を選んだり、残業をせずに定時で帰る人というのは職場の規範を満たしていない人とみなされ、評価や昇給で不利になるという状況です。

同じように、もし経営者や管理職がリモートワークにあまり良い印象を持っていない場合、出社をして働くことがその職場の正しい姿(=規範)となってしまいます。そうすると、職場のルール上ではハイブリッドワークが可能でも、出社が少ない人は「仕事よりも家庭を優先している」「仕事にコミットしていない」「楽をしたいのではないか」と勝手に判断され、不利に評価されてしまう可能性が出てきます。

実際に、いくつかの研究でも、経営者や管理職がリモートワークにあまり良い印象を持っていない職場で、リモートワーク中心で働く人は約8〜15%程度、昇給確率が低くなることが実証されています。

また、このバイアスは男性に対してより強く働くことで知られています。つまり、男性で柔軟な働き方を望む人は仕事よりも家庭や育児などを優先する人、仕事で昇給するつもりがない人と判断される可能性が高くなるということです。その結果、男性は自分の希望に関わらず、我慢して出社して長時間働く選択をしてしまう傾向もあるようです。

「近くで接している=評価しがち」というバイアス

プロキシミティ・バイアスは、日本語で近接性バイアスとも言われますが、「頻繁に話す人」「一緒に過ごす時間が長い人」「親しい人」などを高く評価してしまうというバイアスです。

たとえば、ハイブリッドワークが可能な職場で、頻繁に出社する人とリモートワーク中心の人がいるとします。上司が多く出社する人の場合、プロキシミティ・バイアスが働くと、前者の人の方が高く評価されてしまう、逆に言えばリモートワークの人は不利に評価されてしまいます。

ある研究では、上司と部下がどちらもタバコを吸う場合は、どちらかがタバコを吸わない場合に比べて、約7〜10%近く部下の昇給や昇進の確率が高いことを指摘しています。以前から「タバコミュニケーション」のように言われますが、成果や頑張りではなく、「頻繁に話す」「一緒に過ごす時間が長い」「近くにいること」などが重要になってしまうという象徴的な例です。また、この効果は男性上司と男性部下の場合「のみ」有効ということも知られていて、これが男女格差の原因にもなるのではないかという指摘もあります。

柔軟な働き方が増えていくことは、基本的に良いことだと思います。それによって性別・住んでいる場所・既婚かどうかなど関係なく、誰もがその人の能力を十分に発揮しやすい環境が作れるようになっていくからです。しかし、同時に上記のようなバイアスが発生しやすくなるとも言えます。だからこそ、私たちはこのバイアスの存在を知り、バイアスを排除する仕組みをどう作るかということを考えていく必要があるのではないでしょうか。

『Alternative Work』では、定期的にメルマガを配信中!ニュース、時事ネタから仕事のヒントが見つかる情報まで幅広くお届けします。ぜひ、ご登録ください。

登録はこちら

この記事をシェア: xシェア

石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。