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速い思考と遅い思考。いつも良い意見を出す人ほど「遅く」考えている?

2023/09/26 Tuesday
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仕事をする上で発生する数々の「意思決定」。良い意思決定をするために、私たちはどのような思考プロセスを身につけると良いのでしょうか。

「速い思考」と「遅い思考」の2パターンの思考プロセスと、それぞれのメリット・デメリットを考えます。

「速い思考」とその欠点とは

ファスト&スロー」という本をご存じでしょうか。

ノーベル賞学者であるダニエル・カーネマンが人間の脳のメカニズムについて記載した本です。この本には「速い思考」と「遅い思考」という考え方が出てきて、前者をシステム1、後者をシステム2と表現しています。

カーネマンによると、私たちは何かを考える際にほとんどシステム1を使っていて、システム2は意識しないと使わないとのこと。システム1とは、直感や経験に基づいて判断することであり、日常生活の大半はシステム1で判断を下しています。例えば物の距離感や音の方角の感知などもそのひとつです。
速い思考を使って考えることは、一見よさそうに思えます。仕事をする上で、早く決断すること、スピードがあることはよいことだと言われているからです。

ただし、システム1には欠点があります。

例えば、本の中にはこんな問題が記載されています。

Q:バットとボールの合計金額は1ドル10セントで、バットはボールよりも1ドル高いです。ボールの値段はいくらですか?

咄嗟に「10セント!」と思いついた人も少なくないのではないでしょうか。冷静に考えるとわかるのですが、答えは「5セント」です。

このように非常に単純に見える問題でもシステム1はすぐに作動し、直感に基づいて答えを出してしまいます。それが合っていればいいのですが、同時に危ういものでもあるのです。
(ちなみにこの問題は、ハーバード大やブリスベン大などアイビーリーグの学生に聞いても半数近くが間違えてしまうそうです)

「遅い思考」は意識的な訓練が必要

たしかに、営業現場でクライアントに質問されて咄嗟に対応する場合などにはシステム1の力は必要です。

ただし、会社で役職が上がったり関係者の多いプロジェクトになれば、しなければいけない意思決定は複雑になります。また、1つの意思決定によって影響を受ける人や部署も多くなります。

そういった複雑な問題を扱わないといけなくなるときに、システム1は非常に相性が悪いのではないかと思います。どうしても目の前に表面的に見えている問題に対して、経験や直感に基づいて答えらしきものを出してしまう習性があるからです。

つまり出世したり、大きな仕事を任されるようになればなるほど、システム1の欲求を押さえ込み、意識的にシステム2を作動させないといけなくなります。

システム2は「遅い思考」とも言われますが、発動には集中力が必要であり、かつシステム2は怠け者です。だから、意識して遅く思考することを訓練しないと使えません。

つまり、普段から放っておくとシステム1が作動してしまうので、システム1が優位に立ってしまうことを認識し、あえて経験や直感を疑うところから始める癖がついていないといけないということです。

「遅い思考」を身につける方法

私も多くの人と仕事する上で、どこにいっても成果を出せる人、あっという間に出世していくような人を何人も見てきました。

どこにいっても成果を出せる人に共通しているのは、システム1とシステム2の使い方がとても上手であるということです。

特に、周囲がシステム1に引っ張られて答えを出そうとしているときに、システム2を作動させ、本当の課題を見つけたり問題点を指摘したりできます。

では、意図的にシステム2を使うにはどうしたらいいのでしょうか。

誰にでもできる訓練としては、ニュースやメディアなどで見たトピックに対して「自ら」「データや情報を集め」「自分なりの結論を出す」という癖をつけることだと思います。

前回のAlternative Workで書いた記事をもとに見てみましょう。

昨今、アフターコロナで出社回帰の流れがあると言われています。この言葉を聞いて、「あ、リモートワーク減っているんだな」と思ってしまうのはシステム1の思考です。システム2は、実際にデータを見たり、そこから深く考察して新しい視点を得たりして結論を導く思考のことです。

ちなみに、システム2を作動させてみると、出社回帰に関するニュースの印象は大きく変わってきます。

ビジネスにおいては、現状を正しく認識し、それをもとに会社や事業の方針を考えないといけません。そして、それを行うにはシステム2を作動させることが必要です。

ビジネスにおいて「良い」意思決定をするには、遅い思考こそが重要な力になるのではないでしょうか。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。