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「コミュニティ」がポイント。企業のリスキリング効果を最大化する方法

2023/12/14 Thursday
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会社でリスキリングの施策や福利厚生を提供しているものの、従業員が積極的に取り組んでくれない──そんな悩みを抱える企業は少なくありません。

では、どうすれば、従業員自らが積極的に継続してリスキリングに取り組んでくれるのでしょうか。IT学習、プログラミング活用のコンサルティングや研修・トレーニングを提供する株式会社プランノーツ 代表取締役・高橋宣成さんに伺います。

施策を用意しても、従業員がリスキリングに取り組めないワケ

以前の記事で、企業がリスキリングに取り組む場合、まずリーダーつまり経営者自らがリスキリングを始めるのがよいとお伝えしました。

自らの背中を見せることで、従業員には、リーダーがリスキリングに本気であるという姿勢を見せることができます。しかし、それだけで従業員がリスキリングに取り組みはじめ、その活動を継続できるかというと、なかなかそうはいきません。

では、どうすれば従業員に取り組みを開始して、そしてそれを継続してもらえるでしょうか。

まず、現時点で多くの企業で行われているリスキリング施策と、その状況を考えてみましょう。

従業員のリスキリング施策としては、主に以下のようなものが挙げられます。

  • eラーニング、動画サービスなどのオンライン教育プログラムの提供
  • 研修の提供
  • 資格取得の支援
  • 学習活動の資金的援助

しかし、このような施策を進めるだけでは、リスキリングはうまくいかないということがわかってきました。その理由は2点あります。

ひとつの理由は、学習するか否か、またその成果が、従業員の個人に依存してしまうことです。モチベーションが高く、抵抗なく学習に取り組める従業員であれば、その機会を積極的に活用するでしょう。しかし、モチベーションが低く、学習することに対して苦手意識がある従業員は、学習行動すら起こせないということにもなりかねません。

また、スキルをうまく獲得できたとしても、そのスキルは個人に蓄積されています。つまり、その従業員が退職してしまったら、かけたコストが無駄になってしまいます。

もうひとつの理由は、獲得したスキルを実践する機会がない、もしくは、少ないということです。

せっかくスキルを身につけても、使われないのであれば意味がありません。また、活用する機会がイメージできなければ、スキルの獲得に本腰を入れづらいため、学習効果も低下してしまいます。

このような理由から、リスキリングの施策自体を躊躇する経営者も少なくないでしょう。

リスキリングの社内コミュニティを作ろう

しかし、それらの課題にはある方法で対処することができます。それは、企業の中にリスキリングのためのコミュニティを構築するという方法です。

ここでいうコミュニティとは、学術的には「実践コミュニティ」と呼ばれるもので、教育学者のエティエンヌ・ウェンガーとジーン・レイヴが提唱した概念です。実践コミュニティは、以下のように定義されています。

あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野における知識や技能を、持続的な相互作用を通じて深めていく人々の集団

つまり、企業活動において獲得すると有効なスキルを持続的に教え合う、学び合うための集まりを社内につくるのです。

実践コミュニティの具体例としては、規模の小さなものであれば数人の社内勉強会、規模の大きなものであれば企業内大学が挙げられます。また、その活動としては、定期的に学習するためのイベントを開催したり、チャットツール上で教え合ったりといったものがあります。

社内コミュニティから得られる3つのメリット

社内に実践コミュニティを作ることで得られることは大きく3つあります。

1. スキルを保管できる
2. モチベーションの創出、維持ができる
3. 実践の機会を創出できる

まず、実践コミュニティの特性として特筆すべきは、コミュニティ内に知識やスキルを共有、保管することができるという点です。

たとえば、あるメンバーのみが保有しているスキルがあるとします。それを、勉強会などの教え合う、学び合う活動を通して、他のメンバーにも共有・伝達します。そのスキルは、教わったメンバーに共有されるので、たとえ、もとのメンバーが退職をしたとしても、コミュニティ内にはそのスキルが保管されていることになります。

次に、実践コミュニティはモチベーションを増幅・維持する機能を持ちます。

株式会社ジェイティービーモチベーションズのワーク・モチベーション研究所所長・菊入みゆきさんは、その研究から、職場でのモチベーションは伝染するということを明らかにされました。

このモチベーションの伝染は、同じグループという意識があるとより促進すると言われています。つまり、グループとしてのコミュニティを構築して、そこに明示的にメンバーとして参加することで、コミュニティ内でのモチベーションを伝染・維持することができるのです。

さらに、実践コミュニティでの活動は、実践の機会となります。

たとえば、あるメンバーが、あるスキルを高いレベルで保有しているとします。その場合、実践コミュニティの他のメンバーにニーズがあるものであれば、講師役・先輩役としてそのスキルを「教える」という実践の機会を得ることができるのです。

より手軽なものであれば、学んだことをプレゼンテーションしたり、チャットに書き込むだけでも十分な実践となります。

「教えることは二度学ぶこと」と言われるように、教えることによる学習効果の高さはさまざまな研究で明らかになっています。しかも、社内で講師役・メンター役を見つけることができるのであれば、外部の専門家に講師料を支払う必要もなくなるので、コスト面のメリットも得られます。

以上のように、社内に実践コミュニティを構築することは、企業のリスキリング活動において大きな助けとなるはずです。ぜひ、従業員に学ぶ環境としてのコミュニティを提供し、仲間と学ぶ楽しさ、学んだことを用いて貢献できる喜びを感じてもらえるようにしましょう。

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高橋宣成NORIAKI TAKAHASHI

株式会社プランノーツ代表取締役。一般社団法人ノンプログラマー協会代表理事。コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰。最新の著書に『デジタルリスキリング入門』。他著書に『Pythonプログラミング完全入門 ~ノンプログラマーのための実務効率化テキスト』『詳解! Google Apps Script完全入門[第3版]』等。