マネージャー育成を目的に取り入れる企業が増えている「コーチング」施策。組織にコーチングを取り入れたい場合、どのようなタイミングが適切なのでしょうか?
コーチングサービスを提供する株式会社mento代表取締役・木村憲仁さんに伺いました。
組織にコーチングを取り入れるタイミングとは?
近年、コーチングを取り入れる企業が増えています。従来との違いは、マネジメントスキル育成としてコーチング研修をおこなうのではなく、マネージャーが自身の成長と向き合う機会を提供する「マネージャー育成」を目的としている点で、コーチングにより自発的な成長を促し、より本質的なリーダーシップの形成が期待されています。
コーチングはそうしたリーダーシップ育成において効果的な手法ですが、導入タイミングを間違えると効果が得られづらいのも事実です。
コーチングを取り入れる効果的なタイミングは、以下の3つに分けて考えることができます。
1.組織のタイミング
2.人材のタイミング
3.施策のタイミング
それぞれのタイミングについて、コーチングの効果を最大化するためのポイントをご紹介します。
1.組織のタイミング 〜創業期・成長期・成熟期〜
組織には成長段階があり、大きく創業期・成長期・成熟期に分けられます。それぞれの成長段階で、コーチング導入の考え方は異なります。
創業期:経営層のコーチングが効果的
創業期では、CEOなど経営者がエグゼクティブコーチングを受けるのが効果的です。不確実性の高い事業と組織の状態に向き合い、自分自身の価値観や哲学に基づき経営を前に進めていくことにコーチングが利用されます。創業期はマネージャーと呼ばれる人もまだ明確にいないことが多く、育成よりも採用が重要になるフェーズです。そのため、マネージャー育成という意味ではコーチングの出番は多くないタイミングです。
成長期:マネージャーのコーチング検討開始
成長期では、スタートアップと呼ばれる急成長を志向する企業は、事業の成長に組織の成長が追いつかず痛みを伴うケースも見られます。そこで重要になるのがマネージャーの存在です。
マネージャー育成にコーチングを活用する目安としては、従業員数が100人を超え、人材開発と組織開発の重要性が増してくる頃です。
ただ、企業によっては、“まだ早い”という判断になることもあるでしょう。まずは評価報酬制度やマネージャー職の定義などの組織の“ハード面”が最優先され、人材開発などの“ソフト面”はハードに規定される部分が大きいと考えるからです。
しかし、成長期の企業でもコーチングがうまく機能している例もあります。そうした企業に共通するのは“マネジメントへの期待が組織として擦り合っていること”と“経営の投資意図が明確であること”です。
組織の成長期にマネージャーの育成を目的にコーチングを活用する際は、組織としての人材開発の方針を固め、ありたい姿に向けて戦略的に投資できる状態を作ることが重要です。そうすることで、効果の振り返りがシャープになり、会社の期待と個人の意思をバランスよく扱っていくことができるため、人事・経営視点でも効果的になります。
成熟期:マネージャーのコーチング導入の相性◎
従業員数が1,000人を超え、成熟期を迎えた企業は、マネージャー育成のためのコーチング導入の相性が良くなります。なぜならば、一人ひとりに相応の投資ができる企業体力があり、長期にわたり腰を据えて人材を育成していくことができるからです。
一方で、人事部門が機能分化されていく成熟期は、決裁者に対するコーチング導入についての説明コストが高くなりがちです。コーチングは1on1であるが故に、集合型よりもコストが上がることから既存の研修と比較されやすくなります。
実際にどのくらい効果があったのか、ROIを厳密に示すことが難しいのが人材開発の分野の悩みですが、中長期の経営戦略と施策を紐づけ、「マネージャーたちにどんな変化をもたらしたいのか?」という視点・意図を示すことで、導入の合意が取りやすくなるでしょう。
たとえば、業界再編など外部環境に大きな変化があるなど、ビジネスモデルに転換が求められている場合は、これからのマネージャーに求める姿を擦り合わせることから始めることが近道です。
多くの成熟企業が環境変化に晒され、働く人の多様化に頭を抱えています。そうした背景を踏まえて、「変化を察知し、自分なりの解を持って成長できるマネージャー」を育てることが重要になってくるのではないでしょうか。
2.人材のタイミング 〜コーチングが本当に必要な人とは?〜
従業員一人ひとりの状況によっても、コーチングが効果を発揮しやすい場合とそうでない場合があります。
マネージャー育成のためにコーチングを導入する場合、上長や人事からの指名や挙手制で受講者を募ると、「本当に必要な人」と「せっかくだし興味半分で受けてみようという人」が混在する状態になってしまいます。
どんな研修でも同じですが、効果を実感するためには「のどが渇いている=変化を欲している人」に届けていくことが最も重要です。
そこでキーワードになるのが、「トランジション(過渡期)」です。
アメリカの人材系コンサルタントのウィリアム・ブリッジスが「変化」に適切に対応していく理論として体系化した「トランジション・モデル」というものがあります。「トランジション・モデル」では、トランジションを「何かが終わるとき」、終わりと始まりの間の「ニュートラル・ゾーン」、「何かが始まるとき」の3段階で解説しています。
トランジションには、異動や昇進など環境的な変化から半ば強制的に起こるものと、自発的な意思に基づくものがあります。たとえば、新任・異動したマネージャーは強制的に働き方を変えなくてはならないですし、長く同じ仕事をして“コンフォートゾーン”にいるマネージャーは潜在的に変化を求めているかもしれません。
アンケートなどでエンゲージメントや成長実感のスコアを計測し、このようなトランジションが起きている・起きそうな人材を対象にコーチング施策をおこないましょう。
3.施策のタイミング 〜他の施策との相乗効果を狙う〜
組織にコーチングを取り入れる際、すでに実施されている施策とのシナジーを考慮することも重要です。
コーチングは、外的な刺激とセットで内省を行うことでより効果が促進されます。そのため、他の施策で刺激を与えつつ、そこへコーチングを加えて自分との対話を行うことがおすすめです。
たとえば、360°フィードバックや評価面談などに合わせてコーチングを取り入れることで、振り返りのタイミングが自己を客観視するトリガーとなり、有効に働く場合があります。その他にも、マネージャー研修やリーダーシップ研修など新たな知識を入れ、振る舞いを変えていきたいタイミングでコーチをつけるなど、インプットと内省がバランスよく行われると行動変容につながりやすくなります。
また、組織開発的な視点では、ビジョンや戦略をボトムアップで作りたいときにコーチングを取り入れるのも1つです。この場合、組織全体での対話を良質なものにするために、一人ひとりの思考を耕す目的でコーチングを活用すると効果的に作用します。
以上、コーチングを取り入れる3つのタイミングにおいて、それぞれのポイントをお伝えしました。
数ある人材育成の施策のなかでも、コーチングは対象者の自発性が強く求められるため、効果を出すためには「いつ誰に機会を提供するか?」が重要です。
事業や経営を成功に導くためにも、組織・人・施策の3つの適切なタイミングでコーチングの導入を検討してみてください。
木村憲仁NORIHITO KIMURA
コーチングサービス「mento」を展開する、株式会社mento代表取締役。2014年、リクルートホールディングスへ入社後、販促領域のプロダクトマネージャーを4年半務め、消費者向けのサービス開発を牽引し事業成長に貢献。2018年に株式会社mentoを創業し、個人・法人向けにサービスを展開。延べ2万時間以上のコーチングセッションを提供し、ミレニアル世代のビジネスパーソンの成長を支える。