働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。
今回は、最新の研究結果から、生成AIを活用することにおける「評価への影響」や「ジェンダーバイアスの有無」について考えます。
勢いを増す「生成AI」の活用と研究
2025年の働き方の大きなトピックは、2月現在においては間違いなく「生成AI」だと思います。OpenAIがリリースしたDeep Researchや、XのGrok3などは明らかに今までの生成AIとはレベルの違う推論能力を持っていると言っても過言ではありません。AIエージェントが生活や仕事の中に入ってくる日はすぐそこまで来ていると感じる場面が増えてきているのではないでしょうか。
現在では、生成AIを常時利用している人はまだ一部でしょうし、本格的に業務に入り込んできてることは少ないかもしれません。しかし、そのうちAIが人間の代わりに仕事のフィードバックをするようになる時代はそう遠くないでしょう。
AIは我々の仕事に大きなインパクトをもたらすことになると思いますが、実は、アカデミックな世界ではAIを教師として活用したら人間にどのような影響があるかといった研究が出てきています。
今回は、AIが上司となり私たちの仕事にフィードバックをするようになったらどうなるか?という疑問に示唆を与えてくれる研究、Bao et al.(2024)(※1)を紹介します。
AIが教えることによる成果・ジェンダーバイアスの影響とは
Bao et al.(2024)では、中国で碁の指導者を人間からAIに変えたときにどんな結果をもたらしたかを調査しています。結果は以下の通りです。
- AIに教わった時の方が、人間に比べて男女ともにトレーニングの進度が速くなった
- 女性の方が男性に比べてトレーニング進度はより速くなり、AI導入後5ヶ月間でAIに教わったグループは女性の碁のスコアが男性に並んだ(従来は男女に実力差が存在し、男性の方が高かった)
- 生徒の満足度においてもAIの方が人間の先生よりも高くなった。特に女性の方がAIの先生をより強く好んだ
- 人間の先生の方が、男性の生徒をより好意的に捉えていたが、AIになるとジェンダーによる好みがなくなった
- 女性の生徒は先生のジェンダーバイアス(自分に向けられたもの)を感じていたが、AIからは感じていなかった
※1 Bao, L., Huang, D., & Lin, C. (2024). Can artificial intelligence improve gender equality? Evidence from a natural experiment. Management Science.
ジェンダーバイアスを排除した評価が可能になる?
この研究が示しているのは、教える側のジェンダーバイアスによって男女の成績が変わってしまっていたということです。
従来、碁のプレイヤーは男性が圧倒的に多く、結果的に教える指導者も男性がほとんどです。結果的に、プレイヤーも指導者も「碁は男性向きである」という無意識のバイアスが生まれてしまい、女性に対する指導を怠ったために女性のスコアは有意に下がってしまっていたと言われています。
実はこのような現象は碁に限らず、さまざまな分野でも観測されています。例えば、Carlana, M. (2019)(※2)はジェンダーバイアスの強い男性の先生が数学を教えると女子生徒の成績が有意に下がるといった研究結果を発表しています。「指導」や「評価」が発生する分野では同様の現象が起こっていると考えられるでしょう。
もちろん、AIが学習する際のデータがすでにバイアスを含んだものであれば、AIが出してくる結果もバイアスをより助長してしまうリスクがあるというのはよく言われている通りです。
しかし、バイアスのない状態でAIをうまく活用できれば別です。今回の例のように、今まで上司や教師など評価する人のバイアスによって評価されなかった人の評価が、見直される時代が来るかもしれません。
※2 Carlana, M. (2019). Implicit stereotypes: Evidence from teachers’ gender bias. The Quarterly Journal of Economics, 134(3), 1163-1224.
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。
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