前回は、「2023年、企業がおさえるべき法令改正まとめ【4選】」をご紹介しました。
今回は、新設予定やまもなく猶予期限を迎える法律のなかから、企業がおさえるべき動向を抜粋してお伝えします。
【新設】フリーランスとの取引時の遵守事項が決定【フリーランス保護新法】
2023年の通常国会で審議される予定なのが、「フリーランス保護新法」です。
副業機運の高まりからフリーランスは注目されている働き方の1つではありますが、一方で受注側としては弱い立場に置かれがちです。報酬の支払い遅延や業務内容の一方的な変更、パワハラ・セクハラなど、発注者との間でのトラブルも見受けられます。
現状の対策としては、受注者をいわゆる買いたたきや発注者の権利濫用から守る法律として、1956年に公布された「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)があります。しかし、発注者の資本金が1,000万円を超えていることが条件のため、資本金1,000万円以下の発注者と取引をしているフリーランスは対象から外れてしまいます。
そのため、フリーランスの取引や就業環境を整えるべく、2023年の通常国会で「フリーランス保護新法」の議論がスタートする見込みです。
具体的には、以下のような内容が盛り込まれる予定です。
- 事業者がフリーランスに仕事を依頼する際、「業務委託の内容(仕事内容)、報酬額など」を記載した書面を交付するか、メールなどで記録を残さなければならない
- 契約の中途解除や期間満了後の更新停止を行う場合には、30日前までに予告しなければならない
- 仕事を募集する際、正確かつ最新の情報を伝えなければならない(虚偽の表示や誤解を生む表示は禁止)
- 納品日から60日以内に報酬を支払わなければならない
また、就業環境の整備として、ハラスメント防止や出産・育児・介護と業務の両立についての配慮なども求められます。フリーランス側から要望があれば、就業条件の変更などを検討することも定められます。
【2024年1月〜】電子取引の電子データ保存が義務化【電子帳簿保存法】
「電子帳簿保存法」(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、1998年7月に施行されて以降、何度か改正されてきました。2022年1月に改正されたのが、電子取引の電子データ保存の義務化についてです。
2023年末までの2年間は猶予期間とされていますが、2024年1月以降はデータで受領した書類を紙に出力して保存することは認められなくなります。現在もデータを出力して保存している企業は2023年のうちに業務フローを変更し、新しい保存方法に移行しなければなりません。
法人も個人事業主も、すべての事業者が対象です。電子化により、経理業務が効率化したり、リモートワークなど働き方の選択肢が広がったりするのは大きなメリットと言えるでしょう。
注意点としては、法人の場合、書類データに隠ぺいや偽装があれば罰則が適用されます。書類データの管理や保存方法をメンバーに周知し、的確に行える環境を整備しましょう。個人事業主の場合は、データ保存に対応しないと青色申告の対象から外れる可能性があります。
対象となる書類は2種類。データで受け取ったすべての書類を指す「電子取引」と、取引や決算、国税関係の書類を指す「国税関係帳簿書類」です。保存方法は以下の3つがあります。
- 「電子帳簿等保存」(WordやExcelをPDFに変換したものなど)
- 「スキャナ保存」(紙の書類をスキャナで読み取って保存したもの。スマホなどで撮影した画像でも可)
- 「電子取引データ保存」(書類のデータをダウンロードして保存するもの)
どの方法を選んでも、「真実性」と「可視性」を確保しなければなりません。
真実性を担保するには、たとえば修正や削除の履歴がわかるようにタイムスタンプ機能を使うこと、改ざんできないようにしておくことなどが大切です。
可視性を担保するには、相応の機能があるデバイスを使ってスキャン・撮影すること、閲覧・検索ができるようにしておくことが必要です。
電子帳簿保存法の詳細は、以下の記事でも解説しています。
「電子帳簿保存法をわかりやすく解説!会計ソフトの対応は?」
【2024年4月〜】労働時間の上限規制(建設業・医師・自動車運転業務)【労働基準法】
2024年4月より、建設業・トラックドライバーなど自動車運転業務・医師の3職種について、罰則つきの「時間外労働の上限規制」が適用されます。
具体的には「月45時間、年360時間」(特別な事情がある場合、建設業は単月で100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間以内、自動車運転業務は960時間以内、医師は今後省令などで詳しく制定)の上限規制がかかります。ただし、災害の復旧・復興に関わる業務の場合は、「単月で100時間未満、複数月平均80時間以内」の条件は適用されません。
もともと、2019年4月〜2020年4月に始まった時間外労働の上限規制。しかし、建設業・医師・自動車運転業務の3職種については、5年の猶予期間が設けられていました。長時間労働や人手不足などの課題が深刻化していることがその理由でした。
たとえば、厚生労働省の調査(※1)によると、建設業の総実労働時間は164.7時間で、全産業平均の134.6時間よりも30時間以上多いとされています。また、国土交通省のデータ(※2)では、40〜60代に比べて10~20代の人材が極めて少ないこと、今後10年以内に定年退職を迎える60代以上の割合が多いことが報告されています。
そんな理由から5年の猶予が設けられていましたが、その期限を迎えるのが2024年4月ということです。
一方、この法改正は「2024年問題」とも呼ばれ、各方面にネガティブな影響を与えることも懸念されています。人手不足などの課題を抱えたまま改正に対応しようとした結果、企業(雇い手)にとっては売上の減少、働き手にとっては収入の減少、顧客にとってはコスト上昇に伴うサービス料の上昇などの可能性も考えられるからです。
法改正への対応とともに、各職種での根本的な課題解決に取り組むことが求められます。
※1「毎月勤労統計調査 令和2年度分結果確報」
※2「建設業及び建設工事従事者の現状」
以上、新設予定やまもなく猶予期限を迎える法律のなかから、企業がチェックしておくべきものを抜粋してお伝えしました。
いずれに関しても、その場しのぎの対応ではなく、現状の見直しや根本的な課題へ向き合う好機と捉え、各業界の未来が変わることが期待されます。
さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。