コロナ禍で導入が進んだテレワーク(リモートワーク)。企業と働き手の双方にメリットがあることは理解しつつも、現実的な運用や定着に苦戦する企業も多く見られます。しかし、テレワークを希望する働き手が増える流れは止まりそうにありません。
では、今後もテレワークを継続したい企業や、改めて取り組みたい企業はどのようなことを意識するとよいのでしょうか。本記事では、テレワーク環境で企業が検討すべき「3つの投資」について紹介します。
テレワークにおける企業と働き手の乖離
2022年3月下旬、新型コロナウイルス感染症の「まん延防止等重点措置」が18都道府県で2ヶ月半ぶりに全面解除され、屋外でのマスクが必須でなくなったり、入国時の水際対策が見直されたりなど徐々に行動規制が緩和されてきました。もともとコロナをきっかけに導入が進んだテレワークですが、コロナの変遷とともに人々の働き方にはどのような変化があったのでしょうか。
公益財団法人 日本生産性本部が2022年7月に実施した「第10回 働く人の意識調査」によると、企業でのテレワークの実施率は16.2%(2022年7月時点)と、過去最低を更新。
従業員規模別にみると、101~1,000名の勤め先は前回4月調査の25.3%から17.6%に減少、1,001名以上は33.7%から27.9%に減少、100名以下は11.1%から10.4%へと微減し、いずれの従業員規模でも過去最低の実施率を記録しています。これまでテレワーク実施率は中・大企業が牽引してきましたが、今回はいずれの規模においてもテレワークの退潮が明らかになりました。
また、テレワーカーで週のうち3日以上出勤する人は50.5%と半数を超えています。テレワークを実施していても、出社勤務がメインで部分的にテレワークを取り入れている企業が多いことが浮き彫りになりました。
これらの調査を見ると、一度は導入が進んだテレワークですが、その後に定着しているとは言い難いのが現状です。
一方、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」という問いには、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した人が73%を超える結果に。
つまり、企業のテレワーク実施率の低下の現状と働き手の思いに乖離が生まれていると言えます。しかし、多くの働き手がテレワークを希望していることを考えると、人材確保などの面からコロナ収束後もテレワークを検討せざるを得なくなる企業も出てくるでしょう。
では、企業はテレワーク環境を構築する際にどのようなことを意識するとよいのでしょうか。以下で、企業が検討すべき「3つの投資」について紹介します。
検討すべき投資① 労働環境
検討すべきことの1つ目は、労働環境への投資です。
たとえば、社内の一部の部署や従業員だけが出社の頻度が高い場合、リモート対応できていない業務があるのかもしれません。電話応対や、紙を扱う郵便物の整理、書類への押印などはよくある例です。
そのような場合、まずは社内のICT環境から見直してみましょう。クラウドサービスを活用してペーパーレス化、ハンコレス化から始めるのも第一歩です。しかし、新しいツールを導入したり、従来の仕組みを変えるのは一朝一夕でできることではありません。そんな時は、外部サービスを活用して業務の一部をアウトソースするのも手です。
また、従業員の声に耳を傾けてみるとヒントが見つかるかもしれません。
ちなみに、『Alternative Work』を運営する株式会社キャスターはフルテレワーク歴8年ですが、社内で実施した「テレワークに関する意識調査」によると、「テレワーク環境を快適にするためにお金をかけたいこと」(複数回答可)への回答は以下のような結果となりました。
1位が「椅子」で71.3%、2位が「PC本体」で66.1%。その後、「通信回線」(55.0%)、「PCモニター」(52.3%)、「デスク」(51.6%)の順に半数以上が回答。1~3位に「椅子」「PC本体」「通信回線」など仕事上で必要不可欠なものが並んだのが印象的です。他には、光熱費やワーケーション費用へ充てたいなどの声も挙がりました。
なかには、従業員の金銭的負担を軽減するために従来の交通費手当をテレワーク手当として支給している企業も見られます。アンケート結果からも分かるように、まずは十分なスペックのパソコンや快適なインターネット環境など、基本的なものへの支援・投資から検討するのが良さそうです。
検討すべき投資② 健康管理
従業員の健康管理も投資すべきことの1つです。
テレワークのデメリットとしてよく挙がるのが、「長時間労働」や「運動不足」。自宅などのプライベートを含む空間でのテレワークは、いつでも働ける状況だからこそ、長時間労働が慢性化しがちです。そのため、企業として勤怠管理の徹底が求められます。また、通勤がなく座りっぱなしになることで運動不足も起こりやすくなります。
前述のキャスターで実施した社内アンケートでは、テレワーク環境への投資で「健康グッズ」や「スポーツジム代」など健康維持に充てたいという回答も複数見られました。
ちなみに、同アンケートでの「運動不足解消のためにしていること」への回答は以下のような結果となりました。
仕事の休憩時間に手軽に行える「ストレッチ(自宅)」「ウォーキング」「トレーニング(自宅)」が上位にランクインした一方で、「特にしていない」が24.4%という結果に。
従業員の健康を守るため、企業として具体的に以下のような取り組みから始めてみましょう。
- 勤怠管理を徹底し、マネジメント層を含む従業員の時間管理の意識を強める
- 勤務時間外のチャット利用のルールを明確化する
- 福利厚生の一環として健康支援(健康グッズの支給や運動に関する費用の負担など)を検討する
- 労働環境や健康状態に関するアンケートを実施し、従業員のコンディションを把握する
- 産業医との連携を強め、従業員が気軽に相談できる環境を整える
検討すべき投資③ 評価制度
検討すべきことの3つ目は、評価制度です。
テレワークで企業からよく聞く悩みの1つに、「従業員の働きぶりがみえず、マネジメントや評価がしづらい」という声があります。たしかに、テレワークはオフィスとは違い、従業員が業務に取り組む姿を直接見ることはできません。しかし、従来の基準であった「働きぶり」とは一体なんでしょうか?本当に今まで、一人ひとりの「働きぶり」を正確に把握し、評価することができていたのでしょうか?
もしかすると、「テレワークだからできなくなった」のではなく、「もともとできていなかったことがテレワークで浮き彫りになった」という可能性もあります。テレワークを1つのきっかけとして、従来の評価制度を見直すチャンスとして活用してみましょう。
また、「テレワークでは、プロセスが見えづらく成果主義に偏ってしまう」という悩みもよく聞かれます。こちらも前述の通りですが、改めて定性・定量の両面で目標を立てる仕組みを設計し、達成度合いに応じた評価を行えるよう見直してみることが大切です。
テレワークであってもなくても、日々のコミュニケーションの重要性は変わりません。たとえば、上司へチャットを送りやすい環境を整えたり、定期的に1on1でのオンラインミーティングを実施するなど、テレワーク環境に合わせたコミュニケーションの取り方を検討してみてください。
以上が、テレワーク環境で企業が検討すべき「3つの投資」でした。
現状の実施率は高くはないものの、コロナの状況に関わらず、人材確保や固定費削減などの観点から無視できなくなりつつあるテレワーク。実際に導入・継続するかは別としても、検討してみることで従来のルールや仕組みを見直すチャンスになるかもしれません。
編集部EDITORIAL
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