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生成AIでバナー広告を制作してみた。AIの副次的効果とは?

2024/02/15 Thursday
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ChatGPTが登場してから1年以上が経ち、画像生成・テキスト生成・動画生成・音声生成などさまざまな用途に使える生成AIが乱立している昨今。

生成AIはたくさん登場したものの、恒常的に活用できている人とそうでない人に二極化しているのが現状です。

生成AIは、日々の業務の中でどのように活用できるのでしょうか。デザイン制作に生成AIを活用している株式会社キャスターのマーケティング部門を管掌するCMO・齋藤貢基さんに話を聞きました。

広告デザインに生成AIを活用した背景

――キャスターでは、デザイン制作に生成AIを活用していると聞きました。何をきっかけに、なんのデザインに活用しているのでしょうか?

齋藤:まだ試験的な部分もありますが、GoogleやFacebook、Instagramなどのweb広告運用で使用するバナーデザインの制作に生成AIを活用しています。

web広告運用は、いわゆるA/Bテストのように頻繁にアップデートと比較をしながら最適化していくので、いくつものデザインが必要です。さらに、キャスターでは複数のサービスを展開しているので、必要なデザイン数はさらに多くなります。

これまでは、各サービスのクリエイティブをベースに、色を変えたり背景を変えたりしながら広告デザインを作っていましたが、人の手だけではデザインの数とパターン数を作るのには限界があります。

ロイヤリティフリーの素材も探してみましたが、キャスターのキービジュアルで使っている「人間の手」の素材はなかなかないんですよね。そこで、「それなら、AIに作ってみてもらおう」と、生成AI活用を試みました。

もともとの「CASTER BIZ assistant」のキービジュアル。このデザインをベースに、広告デザインを作成していた。

AIが作る“違和感”は広告運用ではプラス?

――生成AIの活用は、どのように進めたのですか?最初からスムーズにいったのでしょうか?

齋藤:デザイン制作には、ChatGPTの「DALL-E」を使っています。これまで、キャスターのデザインチームではプロンプトを書いた経験はそれほどなかったので、最初は苦戦しましたね。テキストでどう指示すればうまくいくのか分からず、なかなかイメージしたものが出てこなくて…。まずは、テンプレートを使わずに自分でやってみようとしたら、数時間は試行錯誤しました。

そのうち、元の画像をアップロードして、画像を起点にテキストで指示を出して補足していくという方法に行きつき、イメージに近いアウトプットがたまに出てくるようになりました。

生成AIが作った画像をベースに、最終的にはデザイナーがデザインを行い、バナーを完成させています。

ーー実際に生成AIでデザイン制作をしてみたからこそ、分かったことはありますか?

齋藤:面白かったのは、生成AIによるデザインの副産物が、広告運用にいい意味で作用するかもしれないということです。

というのも、実はリード獲得広告やバナー広告においては、“ちょっと違和感がある”デザインというのがコンバージョンを取れる秘訣でもあります。そして、そういう違和感を生成AIで副次的に得られる可能性があるんです。

たとえば、これは実際に広告で運用したデザインですが、ニットを着ている人の右手が壁から出てきています。

生成AIを活用して作った経理代行サービス「CASTER BIZ accounting」のバナー広告のクリエイティブ その1

齋藤:ただ、実は「壁を突き破れ」という指示は出していません。生成AIが勝手に、壁を突き破るというデザインを出してきたんです。よく考えると、壁を突き破っているのは、ちょっと違和感がありますよね(笑)。

こちらのデザインも同様です。電卓が緑の藻のような植物に埋もれていますが、そういうデザインにしてほしいという指示は出していません。

AIを活用して作った経理代行サービス「CASTER BIZ accounting」のバナー広告のクリエイティブ その2

ーーサービスを邪魔するほどではないけれど、なんかインパクトが残るデザイン…みたいな感じでしょうか?

齋藤:まさに、「なんかちょっと変かも?」くらいの違和感とでも言いましょうか。狙ってできるわけではないので偶発的ではありますが、イメージした通りのデザインではないからこそ、広告運用においてはプラスに働く場面もあるかもしれません。

実際に、生成AIを活用して作ったデザインを社内で見てもらったら、「なんか気持ち悪い」「これ、嫌だ」という声も挙がりました(笑)。でも、そういう声を聞いたからこそ、「やっぱり、生成AIのデザインで試してみよう」とも思いましたね。

違和感が強すぎるとサービスや会社のブランディングを毀損してしまうので、一定の品質を保つバランスは重要ですが、生成AIを活用する面白さの1つではあります。

生成AIの現状と可能性。プロンプトデザイナーのニーズも

ーー“違和感”が強みになり得るというのは面白いです。それ以外に生成AIの強みを挙げるとすると、やはりスピードでしょうか?

齋藤:そうですね。ただ、スピードも、人間がゼロから描くことと比べれば生成AIの方が速いですが、ピンポイントで狙ったものがすぐ出せるわけではなく、微調整が何度も必要です。もし、Adobe Stockのようなロイヤリティフリーの素材にイメージとぴったりなものがあるなら、それを加工した方が断然速いこともあると思います。

肌感覚ですが、生成AIでピンポイントに想定する画像を仕上げるには、現段階では1枚につき20分くらいは調整が必要かもしれません。1ヶ月で30、40枚作るとしたら、相当の時間が必要です。

もちろん、ディレクターとデザイナーの実働時間の総量で言えば短縮できますが、ディレクターがデザイナーに変わって生成AIでデザインするとなると、結果的にディレクター単体の実働時間は増えることになります。

そのため、今後は生成AIでデザイン制作を担当する“プロンプトデザイナー”のような職種のニーズはあると思っています。

ーーなるほど。一概に「生成AIを使えばスピードが速い」とも言えないということですね。AIの弱みだと感じたことはありますか?

齋藤:生成AIは、現段階では細かい描写は苦手かもしれませんね。

たとえば、今回の広告デザインには「人間の手」を象徴的に描いていますが、生成AIが作ったデザインでは指が4本になっていたり、6本になっていたりというのは何度もありました。他にも、時計を描いてもらったら数字の並びがぐちゃぐちゃだったり、数字でなかったりというのもよくありますね。実は、今回のデザインにある電卓も、よく見ると数字はバラバラで、数字ではない記号も混ざっています。

生成AIは“それっぽい” “いい感じ”の画像を作るのは得意ですが、細かい部分をよく見ると“ちょっと変”というのはよくあります。

ーー最後に、生成AIを使ってデザイン制作をしてみた総評をお願いします。

齋藤:ここまでお話したように、制作プロセスやデザインのクオリティに関しては、良い面も課題も両方あるというのが現状の感想です。まだ生成AIを使って広告デザインを作っている会社があまりいないので、先取りしてあえて試しているという段階でもあります。今後、AIを活用したデザイン制作がどれくらい主流になっていくかは未知数だとは思っています。

広告運用のコンバージョンやCPA(顧客獲得単価)などの数字面に関しても、まだ判断できかねます。広告運用には、画像のデザイン以外にもテキスト情報や運用方法など変数がたくさんあるので、生成AIの活用のみでCPAが下げられるものではありませんが、ディレクターやデザイナーの人件費まで考慮した場合のCPAは下がってくると思います。

実際に生成AIを活用して作った画像で運用したバナーの中には、CPAが1/4ほど下がった事例も出てきているので、今後も検証を続けていく価値はありそうです。

ーーありがとうございました。また続報があれば、ぜひお話を聞かせてください。

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