2020年のコロナ感染拡大以降、働き方における最も大きな変化の1つはリモートワークだろう。2023年6月時点においてアメリカは労働者の28%(Barrero et al. 2023)、日本では雇用型で27.0%、自営型で27.3%がリモートワークを取り入れている(「令和3年度テレワーク人口実態調査」)。その他、34ヶ国の労働者を対象にした調査でも2023年4月から5月時点において、25.6%がハイブリッドワーク 、7.9%がフルリモートワーク )をしており(Aksoy et al. 2023)、ポストコロナ時代の働き方として定着していると言っていい。
しかし、2023年以降、グローバルで展開をするテクノロジー企業を中心にリモートワーク廃止や出社回帰の動きが出てきており、日本の産業界でも「リモートワークはやはりダメだったのではないか」といった議論は巻き起こっている。しかし、実態を調べてみるとリモートワークの実施率は2022年以降ほぼ変わっておらず、出社回帰は実際には起こっていないことはこちらの記事でも触れた。
では、なぜグローバルテクノロジー企業はリモートワーク廃止や出社回帰の宣言をしたのだろうか。今回はそれらの企業のその後を1年程度追跡してみた。(今回の追跡対象は2023年度にそれらの宣言をした企業を対象とした)
結果わかったこととして、実はリモートワーク廃止や出社回帰の宣言をした後に調査したすべての企業がレイオフを実施していた。詳細は以下の図をみてほしい。
今回の調査は簡単なデスクトップリサーチであり、因果関係は明らかではない。ただ、リモートワーク廃止や出社回帰を宣言した後の会社がその後にレイオフを行っていることは事実である。リモートワーク廃止や出社回帰の宣言は、レイオフのための1つの施策として扱われている可能性が示唆される。
ここからは推測になるが、メカニズムを考えていきたい。
上述したようなグローバル企業はレイオフ(解雇)を定期的に行うが、その際「パッケージ」と呼ばれる金銭的な解決がセットで行われることが通常である。企業によっても異なるが、6-12ヶ月相当の給与と賞与、ストックオプションなどを渡した上で退職交渉をするのである。つまり、レイオフは企業にとってコストのかかる施策でもあるのだ。しかし、もしレイオフを考えていたタイミングで社員が何かしらのきっかけで退職してくれたらどうだろう。企業からすると「パッケージ」を提示することなく人員削減ができることになる。そして、リモートワークが当たり前になっているテクノロジー系企業において、リモートワーク廃止というのは社員が転職を考えるのに十分な理由になり得る。実際に、私の知人で上述した会社のアメリカ本社で勤務している人がいるが、全社会議の場で「リモートワークしたい人は辞めてもらっても構わない」というような趣旨の発言もあったと聞いている。ここからも、リモートワーク廃止をきっかけに社員が減ることを想定していることが伺える。
メカニズムに関しては推測の域を超えないが、リモートワーク廃止や出社回帰のニュースを見て「リモートワークの是非」を問うのではなく、その後まで中長期的に企業の動向を見ていくことでリモートワークにおける違う側面が見えてくるのだろう。
参考文献:
Aksoy, C. G., Barrero, J. M., Bloom, N., Davis, S. J., Dolls, M., & Zarate, P. (2023). “Working from home around the globe”: 2023 report (No. 53). EconPol Policy Brief.
Barrero, José María, Nicholas Bloom, and Steven J. Davis. 2023. “The Evolution of Work from Home.” Journal of Economic Perspectives, 37 (4): 23–50.

石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。
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