interview インタビュー

男性育休、取得者に聞く「育児の自分ごと化」と「休みやすい組織づくり」

2023/11/09 Thursday
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2022年10月から産後パパ育休制度が始まったことなどをきっかけに、引き続き注目されている「男性育休」。厚生労働省によると2022年の男性育休取得率は17.13%と伸びている一方で、まだまだ「男性育休が当たり前の世の中になった」とは言えません。

本記事では、実際に3ヶ月の育休を経験した株式会社キャスターの平塚正人さんに、男性育休の取得前・取得中・取得後のリアルを聞き、「休みやすい組織づくり」のヒントを探ります。

インタビューをした人:平塚正人さん
株式会社キャスター「CASTER BIZ assistant」のCS担当。2022年7月〜9月に育休を取得。

もともと、育休を取るつもりはなかった

――平塚さんは、約3ヶ月育休を取られたそうですね。育休を取ることや期間はどのように決められたんでしょうか?

実はもともと、育休を取る予定ではありませんでした。妻の出産に合わせて1週間ほど有給は取ろうと思っていましたが、当初は育休は考えていなかったんです。なんとなくですが、生まれたての子どもは母親と一緒に過ごすのが幸せなのかなとも思っていて…。

ただ、同じ部署のメンバーに子どもが生まれることを話したら、「えっ、育休取らなくていいんですか!?」と驚かれて。「産後はすごく大変だから、夫婦でサポートし合うのがいいですよ」と、複数人からアドバイスをもらいました。それで、1ヶ月の育休を取ろうとしたところ、「1ヶ月はかなり短いですよ」とさらなるアドバイスをもらって(笑)。自分でも出産準備や産後のタスクを調べているうちに、「妻1人に任せっきりにできるものではない」と思い、3ヶ月取ることに決めました。

――育休はまだまだ“特別なもの”というイメージがあったのかもしれませんね。

そうですね。世の中的な課題でもありますが、周りの友人などにも育休を取ったことがある男性はほとんどいなくて…。ニュースで「男性育休の取得率が上がった」と情報が流れてくる程度で、育休を身近なものとして感じられてなかったのかなと思います。

今回、職場の仲間から言われて初めて育休を取る大事さを知り、自分ごととして考えられた気がします。率直なアドバイスをもらえて感謝しています。

“マニュアル化の徹底”が休みやすさに繋がる

――育休に入る前、仕事に関して懸念点はありませんでしたか?

最初は、「メンバーに負担をかけてしまうな…」という申し訳なさが頭をよぎりました。社会人になってから、3ヶ月も仕事を休むのは初めての経験でしたから。ただ、引き継ぎと復帰の段取りをマネージャー、サブマネージャーと相談していくうちに、徐々に不安は消えていきました。

キャスターは普段から業務マニュアルをしっかりと作る文化があり、実際の引き継ぎは2週間ほどで終わりました。マニュアルが整っていることは、育休に限らず多くの人の「休みやすさ」に繋がると思います。

逆を言えば、マニュアルが整っていても引き継ぎに2週間は必要でした。マニュアル通りにいかないイレギュラーな業務は、もっと時間がかかると思います。

――引き継ぎの他に、育休に当たって準備したことはありましたか?

自分自身がというより、会社から育休で使える制度や申請に必要な書類、提出期日などを一式まとめて教えてもらえたのが助かりました。知らなかったことばかりで、もし1つひとつ自分で調べていたら…と思うと気が遠くなります。

出産前後の忙しさは凄まじくて、哺乳瓶の使い方からおむつやガーゼの準備まで、調べたり覚えたりすることばかり。1つでも調べることが減るだけでとても助かるのだと、身に染みて感じました。

育休は休みではない。育休から復帰までの実体験

――実際に育休を取得してみて、いかがしたか?

実際にやってみるまで、育児に関して知らないことだらけだったことを痛感しました。生後3ヶ月間は、約3時間おきにミルクをあげて、さらにゲップさせたりオムツを替えたり寝かしつけたりと膨大な作業があります。ようやく眠ってくれたと思っても、赤ちゃんが静かになると今度はちゃんと息ができているか不安になったことも数知れず。それに加えて、洗濯や掃除などの普段の家事もあって、もうてんてこ舞いでした。

たしかに1ヶ月しか育休を取っていなかったら、ただでさえ出産を経て体力を消耗している妻をしっかりフォローするには、あまりに一瞬で過ぎてしまっただろうと思います。人それぞれ仕事や家庭の環境が違うので「○ヶ月は必要」というのは一概に言えませんが、僕自身は結果的に3ヶ月取って良かったと思いました。

ーー育休に当たり、半育休(月10日以下または80時間に限るなどの条件のもと、育休中に働ける制度)という制度もありますが、利用することは考えましたか?

僕は使いませんでした。現実問題、育児と家事に追われて寝る時間もない状況で、しばらくは仕事のことを考える余裕はありませんでした。自分には、育休中は家事育児に全力を注ぐスタイルが合っていましたね。

今思うのは、「育休は休みではない」というのが正直な感想です。育休の時期が7〜9月だったので、経験する前には「趣味のサーフィンをしに行けるかも? 」なんて恥ずかしながら思っていました(笑)。でも、実際は遊ぶ余裕なんて全くありませんでした。

「育休」の言葉と現実にギャップがあるからか、最近は「育業」という表現もあるそうですね。

――育児の現実を体感されたんですね。仕事への復帰に関して、育休中に心境の変化はありましたか?

最初は余裕がありませんでしたが、育休3ヶ月目に入った頃、「仕事したいな」と思うようになりました。しばらく仕事から離れていると、ビジネスの現場で大人と会話する楽しさや、仕事で誰かの役に立つ喜びが懐かしく感じられて…。特に、復帰に向けたミーティングで同僚から「平塚さんが戻ってくるのを楽しみにしています!」と言われた時はとても嬉しかったです。そして、「また仕事を頑張って、このチームの力になりたい」と身が引き締まりましたね。

また、育休が終わる頃に会社から「希望があれば育休を延長できますが、どうしますか?」と連絡をもらったのも印象的でした。僕は3ヶ月で復帰しましたが、フラットに選択肢を示してもらえる環境に、働きやすさを感じました。

すべてのメンバーが休みやすい職場づくりを

――「リモートワークは育児と両立しやすい」という声もありますが、フルリモートワーク企業のキャスターで働く平塚さんはどう思いますか?

育児の現場を知る立場からすると、出産直後の育児と「両立できる」と言うのには反対です。というのも、リモートワークには通勤時間がなくなるなどのメリットはたしかにありますが、働く場所がどこであれ、仕事と生まれたばかりの子の育児を同時にやるのは難しいと思うんです。大声で泣く赤ちゃんを抱っこしながら仕事の電話したり、赤ちゃんにキーボードをバンバン叩かれながらメールを打ったりするなんて、とてもじゃないけどできません…。

――経験されたからこそ、わかることですよね。今後、職場の後輩や部下にはどう伝えていきたいですか?

男性育休に関しては、経験者になった自分の実体験を伝えていくのが第一歩かなと思うので、積極的にシェアしていけたらと思っています。

そして、結婚しているかどうか、子どもがいるかどうかに関わらず、全員に「男性育休は必要な制度」ということを伝えていきたいです。

育休は取得する本人だけで成り立つものではありません。取得しないメンバーにも全員へ伝えていくことで、普段の仕事への意識や行動が少しずつ変わり、休むことが当たり前になっていくのだろうと感じます。普段からのマニュアル化はさらに綿密に行っていきたいですね。

そして、育休に限らずあらゆるメンバーが休むことに足踏みしない、休みやすい職場づくりに引き続き取り組んでいきたいと思います。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。