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上半期の注目ワード「日本版ライドシェア解禁」に混在する3つの論点

2024/07/23 Tuesday
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働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。今回は、日本版ライドシェア解禁の課題や論点について考えます。

2024年の働き方の大きな変化3つ

2024年に入ってからも働き方改革は引き続き行われており、さまざまな法案が施行されています。特に、大きく話題となったのは以下の3つではないでしょうか。

1.2024年問題と呼ばれる物流/運送・建設・医療の業界の残業時間規制
2.メルカリハロやリクルートなどの参入による「スポットワーク」の拡大
3.日本版ライドシェアの開始

もちろん、それ以外にも変化はありましたが、この3つが非常に大きな変化として挙げられるのではないかと思います。今回はその中でも「3」の日本版ライドシェアの開始について考えます。

複数の論点が混在する「日本版ライドシェア」

日本版のライドシェアは2024年4月に開始されましたが、タクシー会社が運行責任を持つ一部地域に限られるなど、海外で展開されている個人のギグワーカーが自家用車を利用し、タクシー業務を行うUberのようなものとは一線を画しています。これには賛否があり、現在も本格的なライドシェア解禁に向けた議論が継続されていますが、第一歩として日本版ライドシェアはスタートしています。

国土交通省:日本版ライドシェア(自家用車活用事業)関係情報

上述したような議論の他に、個人的にはいくつか別の論点が隠れているのではないかと思います。ライドシェアが議論された背景にはさまざまな課題があるのですが、地域によって異なるニーズが一緒に議論されており、具体的には、以下の3つが同時並行的に進んでいます。

1. 高齢者が多く車がないとどこにもいけないような地方/エリアで、地域の足として
2. インバウンドの盛り上がりにより賑わう観光地で、タクシーが足らない対策として
3. 東京のような大都市圏や天候/時間帯でタクシーが捕まりにくい対策として

これら3つはニーズも背景にある課題も異なるがゆえ、何でもかんでも「ライドシェア」を解禁したら解決するということはありません。

ライドシェアは本当に最善の策か?検証すべき項目とは?

例えば、地方の高齢者が、どこかに出かける足として、個人が自家用車で近所の人を相乗りして送っていくようなライドシェアは本格的に早く検討すべき、喫緊の課題です。さらに言えば、そういった地方では、ライドシェアを解禁したとしても運転手を担う若者が少ないという問題が存在することも少なくないでしょう。そうなると、地方に関してはライドシェアではなく、一足飛びで自動運転の導入を進めていく方が現実的なのではないかとすら思います。

一方、東京のような大都市でタクシーが捕まりにくい課題についても、本当にライドシェアで解決するのか考える必要があると思います。例えば、タクシーのニーズの多い、雨の日や深夜などの時間帯にライドシェアを行うギグワーカーを確保できないと、この問題は解決しません。しかし、現実を見ると、食事を運んでくれるUberEatsでも本当にデリバリーを頼みたい、天気の悪い日などは配達員が少なく頼めないことが多々あります。もしこれと同じことが起きるのであれば、都市圏でライドシェアを導入したとしてもタクシーが拾いにくい問題は解決しないことになります。

また、他の政策を導入するプロセスについても課題がないとは言えません。現在は実証実験を通して、ライドシェアの課題が解決されるのかを検討しているタイミングですが、本当に車が移動の足の中心となっている地方/エリアの交通手段の課題が解決するのか、ライドシェアに参加するギグワーカーがいるのか、安全面は担保されるのか、これらを確かめる必要があります。

しかし、今のライドシェアの実証実験は、タクシー会社しか実施できず、本当に上記のような検証ができているのか疑問です。参画するタクシー会社も少なく、本当にニーズがある地域での実験ができていません。さらには、現在はライドシェアを行おうと思えばタクシー会社に登録する必要があり、経験がなくてもスマホ1つあれば、空いた時間に好きなときに行えるといった本来のライドシェアのドライバーとは異なります。

このように、本来ライドシェアを解禁するかどうかを決める際に必要な検証項目を明らかにするための設計になっていない点は気になるポイントです。
 
ライドシェアは解禁自体が目的ではなく、日本が抱える課題と向き合うためのきっかけの1つです。ライドシェアを解禁する・しないの二択ではなく、しっかりとデータやエビデンスに基づいた意思決定ができるプロセスの構築が必要です。そして、その過程がオープンになり、政策決定のあり方もアップデートされていく機会として取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。

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