「ラーケーション」という言葉を聞いたことはありますか? 子どもの学び(Learning)と、保護者の休み(Vacation)を組み合わせた造語です。
「ラーケーション」は愛知県で始まった新制度で、保護者の休暇に合わせて子どもが学校を休み、平日に学校外での学び・体験を広げることを目的に始まりました。実際どのように活用できるのか、具体的な制度の内容とともに解説します。
学校を休んでも欠席扱いにならない
愛知県の「休み方改革」プロジェクトの一環で生まれた「ラーケーションの日」。すでに2023年9月1日からスタートしており、2024年1月までに愛知県内の53市町村、1003校で実施予定です。対象は、実施する自治体の公立小学校・中学校・高校・特別支援学校に通う子どもたちとされています。
医療やサービス業、飲食業などを中心に、土日に仕事を休めない保護者もいるなか、平日でも家族で過ごす時間を増やせるという意味で価値ある施策といえます。ラーケーションを利用する際には校外での「自主学習活動」をするのが前提で、子どもは学校を休んでも欠席扱いにならない点が特徴的です。
取得できるのは、年に3日(2023年度は2日)まで。バラバラでも連続でも取得できるので、遠方に出かけたり旅行先で学習したり、学習の目的によって自由に計画できます。
ラーケーションが優れているのは、各関係者にメリットがあるところ。子どもは校外学習の機会が増え、保護者は有給休暇を消化しながら平日に家族で過ごす時間を増やすことができます。
なお愛知県では、週末や連休を避けた旅行客に特典を付与する「あいちスキ旅キャンペーン」を行っており、お得なプランが用意されているので要チェック。
ラーケーションは、地域としても観光地の混雑緩和や観光業の労働生産性、働きやすさアップを期待できます。
活用方法。まず、計画を立てて学校に届けを出そう
愛知県では、ラーケーションの活用の際の具体的な進め方が決められています。
まずは、Web上で公開されている「ラーケーションカード」に沿って、家庭で「学ぶ日、学ぶ場所、学ぶこと」の計画を立て、学校が指定する方法で前日までに届け出ます。
この計画を立てるには、どこで、何を目的に、どんな学びをするかを家庭で話し合わなければなりません。その経験自体、学校の授業とは異なる学びですから、子どもにとって貴重な経験となるでしょう。
計画の詳細な内容を学校に提出する義務はなく、内容を審査されることもないため、各家庭の自主性に任されています。行き先は、テーマパークでも海外旅行でもOK。もちろん、必ずしも遠方に行く必要はありません。近所の公園や図書館、公民館などでもたくさんの学びが得られるので、子どもの興味関心に合わせて計画を練るのがいいでしょう。
なお、愛知県のラーケーションポータルサイトでは、愛知県内のラーケーション向けスポットが多数紹介されており、具体的な計画を立てやすいように工夫されています。
保護者からは賛否両論?
始まったばかりのラーケーションですが、保護者からは賛否両論ある模様。その一部をご紹介します。
「机に向かう以外の学びも体験させたい!」などポジティブな見方
- 職業柄、土日に仕事を休んで子どもと過ごすことはできないので、制度をフル活用したい
- 子どもにとっては、机に向かってする勉強だけでなく校外学習も大事。その時間を取れるのはありがたい
- 学校の勉強がすべてではない。子どもが自然に触れたり、本物のアートに触れたりするチャンスにしたい
- 休みが平日に分散することで、観光地の混雑や渋滞が緩和される。子育て世帯以外にもプラスの影響がありそう
- これをきっかけに、学校の「皆勤賞=いいこと、休む=悪いこと」という見方が薄まっていってほしい
「勉強についていけなくなるのでは?」と懸念やネガティブな見方も
- 授業を休んだ分の補習は家庭でしなければならないため、保護者がフォローする必要が出てくる
- 子どもの学習進度のばらつきが大きくなると、ただでさえ人手不足にあえぐ教師の負荷がさらに増えてしまうのでは?
- 年に3日程度では少ない。校外学習の体験は、日数を限定せずに推進するべきだ
- 休暇を取ると収入が減る保護者もいる。その収入が補填されないと使いにくい制度だ
- ラーケーションできる子とできない子がいる。その格差を助長してしまうのではないか
懸念点としては「ラーケーションで学校を休んだ分、授業についていけなくなってしまうリスク」が多く挙げられました。その分は家庭の自習で補うことになっているので、不安を感じる保護者が多いようです。
「活用したい」母親が多数。他の自治体にも広がりが
ラーケーションに注目している自治体は、愛知県の他にもあります。
たとえば、大分県別府市では「たびスタ」の名称で、平日の家族旅行を推奨。愛知県とは異なり、市外への旅行が条件となっています。別府は全国的に有名な温泉地で、観光関連業で働く保護者が多く、週末には休みを取りにくいことが想定されます。「たびスタ」を活用すれば、平日に家族で過ごせるいいチャンスになりそうです。
じわじわと注目を集めるラーケーションに、世間の期待も高まっています。情報サイト「ママスタ」の調査によると、「ラーケーションの日」が全国でも導入されるとしたら、「活用したいと思う」と回答した母親が79.8%(※)と多数でした。多くの方に、ポジティブに受け止められているようです。
平日に家族でゆっくり、校外学習に取り組んでみたい──そう考える保護者のニーズを満たしつつ、地域経済にも寄与するラーケーション。利用率や利用者の声を元に、これから全国の各地域で導入が検討されていくかもしれません。
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さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。