働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。
今回は、男女賃金格差の分析でわかった事実と、不都合な事実への向き合い方について解説します。
男女賃金格差が生まれる要因の3、4割が「説明できない要因」
私は、2024年に入ってから複数の日系大手企業やスタートアップと一緒にプロジェクトを進めています。
そのプロジェクトは、男女賃金格差を分析するというもので、平均の差だけではなく、差を生んでいる要因を経済学的手法を使って明らかにしていく試みです。細かい手法についてここでは述べませんが、経済学的な統計分析を行うことで男女の賃金差を「説明できる要因」と「説明できない要因」に分解できます。後者のほとんどは、思い込みや先入観のようなバイアスと同義だと思ってもらって構いません。
私が分析を行っている会社はいずれも、男女賃金格差の要因のうち3、4割が後者の「説明できない要因」を占めていました。また、バイアスにより、長い時間働くこと/働ける人がより高く評価されていることが明らかになりました。
不都合な事実に向き合えない人は多い
分析結果を人事部門の役職者や役員向けに説明したのですが、データで明らかになった「事実」を事実として受け止められる人は皆無に等しかったです。
データを見て独自の解釈を試みようとする人、データの誤りがあるのではないかと疑う人、データでは実態がわからないと言い出す人、男性が責められている気がするからという理由で受け入れられない人…タイプはさまざまですが、どうしても目の前にあるデータを認められないようでした。
「なぜそこまでして男女一緒にしなければいけないのだ」という人もいる状態です。、ジェンダー平等の問題はさまざまな意見があるでしょうが、少なくとも私が一緒にプロジェクトを行なっている会社は、「2030年代に女性管理職をX%まで上げる」という目標を掲げ、さらに男女の賃金格差をなくすことにコミットしている会社です。その会社の人事部門の役職者、役員がこのような発言をしていると考えると、非常に驚くべきことでもあります。
しかし、最大の問題はそこではありません。統計分析の結果、浮き彫りになった「事実」があるにも関わらず、それよりも自らの感情や感覚、経験値を優先してしまっている点が一番の問題です。
もちろん、データや分析は万能ではありません。統計分析はあくまで「結果」であり、原因ではないので、過去の意思決定や施策の失敗などを議論するものでもありません。データとして取得していない項目や変数についてはその影響を明らかにすることはできません。例えば、男女賃金格差における上司の影響を調べようと思っても、歴代の上司の属性や評価などをデータとして残していなければわかりません。
とはいえ、何らかの要因が積み重なった現実として、統計分析の結果が出ているのは事実です。今回のケースで言うと、「男女で賃金の差がある」「説明できない要因が男女賃金格差の約3、4割を占めている」「長い時間働くこと/働ける人がバイアスにより高く評価されている」のは紛れもなく「事実」です。
事実を前に浮き彫りになる「誰かのせい思考」or「問題解決思考」
こういった残酷な事実やデータが出た際の態度で、その人がどのように現実を捉えるかがわかるのですが、大きく分けると2つのタイプが存在します。
1つは、事実があったとしても、上記のように自分の都合の良いように解釈したり、何かしらデータや分析結果が現実と齟齬があることを根拠なく指摘しようとしたりするタイプです。また、この結果は誰が悪いのか、何が良くなかったのかと犯人探しをすぐに始めるタイプも存在します。言うならば、「誰かのせい思考」を持っている人です。もちろん、統計手法に誤りがある可能性もありますが、ビジネスの場で求められ問われるのはそのような態度ではないでしょう。
もう1つは、事実をそのまま受け止め、「ではどうするか?を考える」「本当の要因を知ろう」とするタイプです。このタイプは、どんなに自分にとって都合の悪いデータや事実が出てきたとしても、それをそのまま受け止め、改善することに目が向いています。つまり、どこまでも「問題解決思考」なのです。むしろ、問題を明らかにでき、解決の糸口が見つかるデータや事実を重視し、その結果出てきた問題をどう解決するかにしか、興味がありません。
2つのタイプが存在するときに、どちらに会社の重大な部署を任せたいかは明白でしょう。私も2023年11月まで上場企業の取締役を務めていましたが、会社の重要な役職であればあるほど、後者の人材であることを重視しました。管理職、特に役員に近づけば近づくほど、主な仕事は問題の発見とその解決になります。そのようなポジションに前者のタイプは登用できません。問題を解決してくれないどころか、問題発見のヒントになるデータや事実が出てきているにも関わらず、それを見過ごしてしまったり、報告してくれない可能性が高いからです。失敗を認めない、自分が責任を負うかもしれないなど、「自分の保身」ばかりを考えているタイプを管理職に据える、特に役員に近いポジションに置くことは会社にとってリスクが大きくなります。
役職が上がれば上がるほど、部下では解決できなかった事案、部下では判断できなかった事案を扱わなければなりません。その多くは、ネガティブな事案や誰かにとって痛みを伴う事案です。つまり、会社で役職が上がるということは、不都合な事実や課題にばかり向き合うことになります。だからこそ、不都合な事実やデータをむしろ歓迎し、それをきっかけとして問題解決の糸口にできる人こそが、より役員に近づいていくのだと思います。
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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。